『思ったより早く終わりそうだよ。正確な時間がわかったらまた連絡する。』
はい、はーい、と電話口から微かに聞こえる言葉の余韻を待たずに電源を切ると、Kはそれを待っていたように振り返り、にこりと笑った。
「 、大好き!」
いや、君には相手がいるじゃないか、と私は笑いながら言う。Kに便乗するように雀や旧友たちが、口々に彼氏になってくれ、結婚してくれ、と囃し立て、私は、本当にか、と、困ったなというように笑いながら受け流した。
からだにぽっかりと穴が開いたような、そんな気持ちだった。
束の間の再開。
彼氏はできた? 学校は楽しい? そんな常套句を繰り返し繰り返し、旧友たちは笑っている。みんな笑っている。私は一人、ぼんやりと前を向いて、別のことを考えていた。この邂逅に、果たして意味はあるのか。隙間を埋める自問に、自答するものはいない。自分は、いない。
世界に触れない思考は別の世界を生み出す。
(わたしとわたしの、とじたせかい。)
その世界にあるのは寂しさではなく恐怖だ。
闇よりも深い過去が、目を光らせて私を見ている。いつかまた、同じことを繰り返すのではないかと。捕えようとしている。今を。ひたすら閉じ籠り閉じ籠り、世界は益々内心してゆく。
閉じて行く世界と、広がり続ける世界を、繋いだのは窓ではなく声だった。
「 」
私は笑う。
誰かが笑う。
なにもない、があるこの世界に、立っているのは誰だ?
全てが揃っていながらも、全てを隠す世界はここだ。
友よ、同じ窓を見た旧友たちよ。全ては過去になる。全ては記憶になる。旅立たねばならぬ。かつての場所を棄てて。
私は道を外れよう、この場所からは、かつて共に夢を見ていた窓は見えないのだ。
『予定通りに着く。私はどうすればよい?』
『いつもの道を向かってくれ』
携帯電話をぱたんと閉じる。のんびりと立ち上がる。歩き出す。草のにおいがする風が吹く。排気ガスが流れる。信号の向こうを見る。見慣れた顔が見える。
(「ただいま」)
いつか道が交差し、再び同じ夢を見ることが出来るときまで、今は暫しの幕間である。