毬の話をしよう。
ずいぶんと珍しい同級生達と最後まで箱に残っていた毬を連れて、私は例の場所にやって来た。
「ここに、いたんだ。むかし。」
「……うん」
階段の縁に座ると、何度もこうして話をしたことを思い出す。それも最早、過去になろうとしていた。
「有名になるんだ、」
「うん」
「何でも良いから、有名になるんだ」
「うん。やるってみる。そうすれば、」
また、毬に会えるんだろう。
「さびしいなぁ。毬に会えなくなるのは」
「なんで!」
「他の人はまた会えそうだけど、毬にはもう会えなさそうなんだもの」
聡明な二号は大きな声で言った。冗談のように言ったが、それがこの瞬間を的確に表していた。皆が皆、もう毬に会えないことを、直感的に感じていたのかもしれない。冷たい風が吹いていた。
「もう、行った方が良い。寒いし、約束があるんだから」
私たちは不承不承に背中を向けて、別れを告げる。
「さよなら」
歩き出し、しばらくしてからそっと振り替えると、いつも誰よりも早く背を向ける、あの毬は、私たちの背中をじっと見送っていた。見えなくなるまでそうしているような気がして、私はそれを指摘せずに前をむいた。視界が曇っていた。
『ずっと、探していたよ。毬のような人を。中中いなかった』
『そうだ、君のような人の方が、ここでは珍しい。』
『もっとはやく話したかった。そうすれば私は、』
『ほらまた、さみしいことを言う!』
その夜、毬からメールが来た。
紛れもない三人目である毬との話は、これで終わりだ。
PR