最後に彼女の話をしよう。
彼女とは二度写真を撮り二度会話をした。語ることなど多くはない。只彼女と写真を撮ったとき。卒業することなど何も思わなかったのに。なぜだか無性に空っぽになってしまったというそれだけだ。それから私の腰を引き寄せたその腕から、彼女の最後の恩赦を感じた。ただそれだけだ。
「最後までいるんですか」
「うん!最後までいるよ――ええ、帰っちゃうの?」
私は黙って頷いた、それから、視界の端に捉えた同級生たちを、単なる群衆としてなぞりながら、言うべきことを言うために口を動かす、が、羽目を外した喧騒に声が溶けてしまい、聞こえない、というように彼女は顔をよせた。彼女の耳に手をそえ、むかって、内緒話のように私は言う、「知っていたと思うけれど」
知っていたと思うけれど、わたしはむかし―――――、―――――――!
彼女は目を猫のように細めて、口角を猫のように上げて、言った。「ありがとう!」。いつも通りの口調だったが、私はそれを、わざとらしいとは思わなかった。彼女が私を許したのか、私が彼女を許したのか、わからなかった。が。ごめんなさい、ごめんなさい。私はそう謝り、彼女の肩にすがっていた。
一年ぶりのそれは、記憶以上にやわらかく、思い出以上につめたかった。
彼女は喧騒に向かって行こうとし、私は最後の問いを尋ねる。
「私は、君に告白したことになるのかな」
彼女はそれには答えなかった。
私はそれで箱を後にし、一度も振り返らなかった。それっきり彼女とは話をしていない。そして、それでよかったのだと思っている。
彼女の話は、それで終わりだ。
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