アートと海先生の話をしよう。
アートは話すことを考えていた。
「色々考えているけれど、まとまらないんだ」
眉をよせてうんうん唸っていたアートに断って、私は法隆先生のところへ出掛けていった。
私が挨拶を終えて帰ってきた時、アートと海先生は椅子に座って話をしていた。アートは泣きながら。私は二人の間に座り、話を聞いた。
その内容は此所で語るべきものではない。
ただその時を思い返すと、私はぼんやりと、アートとは根本的に似ているのかもしれないと考えはじめているのだ。
(アートは私のして欲しいように触れてくれるのだ。許してくれるのだ。
私はアートが言って欲しいことを知っていた。アートが泣いている理由を知っていた。多分、それが勘違いでないのなら、私とアートは似ている。けれど、そんなことを言うのは烏滸がましい。アートのプライドが、許すまい。)
だからその可能性にもっと早く気づいたとして、私はそれでも黙っているしかなかったに違いない。
『こわいよ、こわいよ、ひとが。みんなが、怖いんだ――!』
あの時アートは言った、倒れ込んだ私を支えながら、
『おなじだ。おんなじだあ……!』
一つ、印象深かった言葉がある。
「私は正直、君のことも苦手なんだ。良い人すぎて、苦手なんだ。」
「いいや、私は悪い人間だよ、それもこの間証明されただろう」
私の意見を聞きながら、それでも私を好い人だと言ったアートのほうが十分に好い人だと思っていた。アート以外の人間が言ったのなら、皮肉とさえ思ったかもしれない。だから少なくとも、その面では、私はアートとは似ていないし、これからも取り立てて指摘することもないのだけれど。
海先生は行ってしまった。アートは立ち上がる。
アートはもしかしたら、皆が思っている以上に海先生に思いを傾けていたのかもしれない、と、思いながら、私は空になった教室を見ていた。それはもしかしたら恋などではなく、もっと切実な、繋がりとして。野暮な例を出すのなら、私が彼女に、求めた繋がりのように。
アートは私の頭を一撫でして、去っていった。じゃあ、また。
これが、アートと海先生の最後の話だ。
PR