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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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3月10日 失踪

どこか全てに距離を取り浮遊していた。そして、久しぶりに彼女を見たときは、心臓を揺さぶられたような気がした。たまに、ごくたまに、寝入り端に心臓を転がされるように感じるときがある。それに似た生理的な感触。喉の奥には人工樹脂の塊がずんぐりつまっていて、飲み込むことを困難にする。
ただそれだけだ。
何も思わない、と、思う間もない。
黙り込んだ海のような「私」はただぼんやりと箱の中身を見ていた。

「私の、  !」
「ああ、そうだね」
に、と笑うと東北は笑った。心臓もとても愉快そうに笑った。私は私が二重になっているような気がして、痛みを感じない。
その代わりに、今までのように力がない――ただ切れた凧のように、どこか遠く遠くを浮遊してゆく。離れていく。


昨日昨日だと思っていた日が一年前だったのは半年前の話。いつかいつかだと思っていた日がもうすぐなのは今の話。
とうとう私は断ち切って、今ではなく先を見るのだ。

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3月19日 脱力

「すみません海先生。持っていきますから……」
「いや! 別に良いよ、」
意外そうに答えた海先生に、雀と顔を見合わせる。
この箱の規律と暗黙の了解にも慣れたが、未だに首を傾げることがあった。そのうちの一つが掃除をしないことで、
「海が疲れてるよ、」
もう一つが教師に敬語を使わないことだ。
「最後の大掃除だ。卒業すればもうこんなふうに掃除をすることもあるまい。」
「そうだね」
「まあ、それも乙ということだよ」
と、会話をしてそれっきり黙った。
机の足を淡々と拭くもの、友人との談笑に花を咲かせるもの。様々な人間がいる。早く終わりたいのなら口ではなく手を動かせ。と、ワタヌキなら露骨に顔をしかめたかもしれない。しかしワタヌキも、いい加減その暗黙のルールに慣れたのか――私はワタヌキが、内向的になったせいだと思っているけれど――そういうものだと諦めたのか、黙って手を動かしていた。

「それは使わないものですか」
「そう。まとめて持っていくよ」
「ああ――いや、持っていってしまいましょう」
ホウキを受け取って教室を出た。立ち止まるのを、何もしないのを、避けたかった。ぼんやりと終わるのを待つようなことは、したくない。実際的なことしか今の私には意味を持たないのに。
教室からは、ああ、優しいのね、と、彼女の声が聞こえてきたが、違うんだ、と思う気力も、その意味を考える体力も、生まれてこなかった。

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