「なんで、彼女なの、?」
「――どうしてだろう。な。優しかったからじゃないだろうか」
船頭は微笑んだ。
「どうして――優しい人は他にもいるじゃない!」
は、と私は顔を上げた。そこまで突き詰めた質問を能動的にされたのは、初めてだった。
「……優しいといっても彼女は、他人行儀に優しいんだ。それは私だから注がれるものではなく、誰にでも与えられるもので。他人行儀な人間は、どんな人間であっても一様に接するだろう、だから、」
「だから好きだったの?」
いつものようにした他人行儀の説明の、確認の言葉に私は頷く事が出来ず、ただ判らない、と繰り返していた。
船頭はもしかしたら、全てを知っているのかもしれない。その敏感さ故に、私のことも彼女のことも、今までのこと全てを。しかし、その強靭な信念故に、決してそれを言わない。誰にも言わずにただ持っているのだ。
私は立ち直ると、窓の外を見た。確かに、それは事の本質を突いていた。
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