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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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11月13日 中心


「なんで、彼女なの、?」
「――どうしてだろう。な。優しかったからじゃないだろうか」
船頭は微笑んだ。
「どうして――優しい人は他にもいるじゃない!」

は、と私は顔を上げた。そこまで突き詰めた質問を能動的にされたのは、初めてだった。

「……優しいといっても彼女は、他人行儀に優しいんだ。それは私だから注がれるものではなく、誰にでも与えられるもので。他人行儀な人間は、どんな人間であっても一様に接するだろう、だから、」
「だから好きだったの?」

いつものようにした他人行儀の説明の、確認の言葉に私は頷く事が出来ず、ただ判らない、と繰り返していた。
船頭はもしかしたら、全てを知っているのかもしれない。その敏感さ故に、私のことも彼女のことも、今までのこと全てを。しかし、その強靭な信念故に、決してそれを言わない。誰にも言わずにただ持っているのだ。

私は立ち直ると、窓の外を見た。確かに、それは事の本質を突いていた。

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3月5日 代替


いつだったか**は言った。

「キスしたくなった」

細められた目は紛れもなく私を見ていて、いつものようにからかうような口元がそこにはある。しかし裏腹に、声は微かに震えていた。

やめろ、という理由もなければ、いいよ、と理由もない。ただ、都合が良すぎる、と、思った。
あの時私が気づかなかったのと同じ理由で、自分の予想に自信が持てないのだ――ただ、
「別にいいよ――すればいい」
と言うと、驚いたように静止する気配がし、沈黙が訪れ、私は腹に息をためた。「いいよ、二言はないんだろう……」

しばらく意味のある沈黙が続き、黙って私はその瞬間を待った。**の手が腕に触る。戸惑うように――直ぐに離れていく。

「……あ」
「……びくっ、て。なった。」


嗚呼、強張った身体は、一体何を伝えたのだろう。拒絶だろうか? いや、それは違うのだ、と私は反芻する。
本能的な嫌悪だったのかもしれない。性に対するものではなくて、人間に対する根本的な嫌悪。
わからなかった。ただ、それが彼女であったら私は、おそらくは、
(迷うことなく受け入れたんじゃないのか)


ファンをまわす機械音と喧騒。音のない小さな部屋でまだ二人は黙っていた。
手を伸ばせば触れる距離で、二人はそれを許していたのに、私は**に、指一本触れなかったし、**も同じだった。

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3月23日 幕物語/血の欠片

アートと海先生の話をしよう。

アートは話すことを考えていた。
「色々考えているけれど、まとまらないんだ」
眉をよせてうんうん唸っていたアートに断って、私は法隆先生のところへ出掛けていった。
私が挨拶を終えて帰ってきた時、アートと海先生は椅子に座って話をしていた。アートは泣きながら。私は二人の間に座り、話を聞いた。

その内容は此所で語るべきものではない。

ただその時を思い返すと、私はぼんやりと、アートとは根本的に似ているのかもしれないと考えはじめているのだ。

(アートは私のして欲しいように触れてくれるのだ。許してくれるのだ。
私はアートが言って欲しいことを知っていた。アートが泣いている理由を知っていた。多分、それが勘違いでないのなら、私とアートは似ている。けれど、そんなことを言うのは烏滸がましい。アートのプライドが、許すまい。)
だからその可能性にもっと早く気づいたとして、私はそれでも黙っているしかなかったに違いない。


『こわいよ、こわいよ、ひとが。みんなが、怖いんだ――!』
あの時アートは言った、倒れ込んだ私を支えながら、
『おなじだ。おんなじだあ……!』



一つ、印象深かった言葉がある。
「私は正直、君のことも苦手なんだ。良い人すぎて、苦手なんだ。」
「いいや、私は悪い人間だよ、それもこの間証明されただろう」
私の意見を聞きながら、それでも私を好い人だと言ったアートのほうが十分に好い人だと思っていた。アート以外の人間が言ったのなら、皮肉とさえ思ったかもしれない。だから少なくとも、その面では、私はアートとは似ていないし、これからも取り立てて指摘することもないのだけれど。


海先生は行ってしまった。アートは立ち上がる。
アートはもしかしたら、皆が思っている以上に海先生に思いを傾けていたのかもしれない、と、思いながら、私は空になった教室を見ていた。それはもしかしたら恋などではなく、もっと切実な、繋がりとして。野暮な例を出すのなら、私が彼女に、求めた繋がりのように。

アートは私の頭を一撫でして、去っていった。じゃあ、また。

これが、アートと海先生の最後の話だ。

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3月23日 幕物語/友

毬の話をしよう。


ずいぶんと珍しい同級生達と最後まで箱に残っていた毬を連れて、私は例の場所にやって来た。
「ここに、いたんだ。むかし。」
「……うん」
階段の縁に座ると、何度もこうして話をしたことを思い出す。それも最早、過去になろうとしていた。
「有名になるんだ、」
「うん」
「何でも良いから、有名になるんだ」
「うん。やるってみる。そうすれば、」
また、毬に会えるんだろう。


「さびしいなぁ。毬に会えなくなるのは」
「なんで!」
「他の人はまた会えそうだけど、毬にはもう会えなさそうなんだもの」
聡明な二号は大きな声で言った。冗談のように言ったが、それがこの瞬間を的確に表していた。皆が皆、もう毬に会えないことを、直感的に感じていたのかもしれない。冷たい風が吹いていた。
「もう、行った方が良い。寒いし、約束があるんだから」
私たちは不承不承に背中を向けて、別れを告げる。
「さよなら」
歩き出し、しばらくしてからそっと振り替えると、いつも誰よりも早く背を向ける、あの毬は、私たちの背中をじっと見送っていた。見えなくなるまでそうしているような気がして、私はそれを指摘せずに前をむいた。視界が曇っていた。


『ずっと、探していたよ。毬のような人を。中中いなかった』
『そうだ、君のような人の方が、ここでは珍しい。』
『もっとはやく話したかった。そうすれば私は、』
『ほらまた、さみしいことを言う!』


その夜、毬からメールが来た。

紛れもない三人目である毬との話は、これで終わりだ。

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3月23日 幕物語/確認

最後に彼女の話をしよう。
彼女とは二度写真を撮り二度会話をした。語ることなど多くはない。只彼女と写真を撮ったとき。卒業することなど何も思わなかったのに。なぜだか無性に空っぽになってしまったというそれだけだ。それから私の腰を引き寄せたその腕から、彼女の最後の恩赦を感じた。ただそれだけだ。


「最後までいるんですか」
「うん!最後までいるよ――ええ、帰っちゃうの?」
私は黙って頷いた、それから、視界の端に捉えた同級生たちを、単なる群衆としてなぞりながら、言うべきことを言うために口を動かす、が、羽目を外した喧騒に声が溶けてしまい、聞こえない、というように彼女は顔をよせた。彼女の耳に手をそえ、むかって、内緒話のように私は言う、「知っていたと思うけれど」

知っていたと思うけれど、わたしはむかし―――――、―――――――!


彼女は目を猫のように細めて、口角を猫のように上げて、言った。「ありがとう!」。いつも通りの口調だったが、私はそれを、わざとらしいとは思わなかった。彼女が私を許したのか、私が彼女を許したのか、わからなかった。が。ごめんなさい、ごめんなさい。私はそう謝り、彼女の肩にすがっていた。


一年ぶりのそれは、記憶以上にやわらかく、思い出以上につめたかった。



彼女は喧騒に向かって行こうとし、私は最後の問いを尋ねる。

「私は、君に告白したことになるのかな」

彼女はそれには答えなかった。

私はそれで箱を後にし、一度も振り返らなかった。それっきり彼女とは話をしていない。そして、それでよかったのだと思っている。

彼女の話は、それで終わりだ。

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6月


『思ったより早く終わりそうだよ。正確な時間がわかったらまた連絡する。』

はい、はーい、と電話口から微かに聞こえる言葉の余韻を待たずに電源を切ると、Kはそれを待っていたように振り返り、にこりと笑った。
「  、大好き!」
いや、君には相手がいるじゃないか、と私は笑いながら言う。Kに便乗するように雀や旧友たちが、口々に彼氏になってくれ、結婚してくれ、と囃し立て、私は、本当にか、と、困ったなというように笑いながら受け流した。

からだにぽっかりと穴が開いたような、そんな気持ちだった。

束の間の再開。
彼氏はできた? 学校は楽しい? そんな常套句を繰り返し繰り返し、旧友たちは笑っている。みんな笑っている。私は一人、ぼんやりと前を向いて、別のことを考えていた。この邂逅に、果たして意味はあるのか。隙間を埋める自問に、自答するものはいない。自分は、いない。

世界に触れない思考は別の世界を生み出す。
(わたしとわたしの、とじたせかい。)


その世界にあるのは寂しさではなく恐怖だ。
闇よりも深い過去が、目を光らせて私を見ている。いつかまた、同じことを繰り返すのではないかと。捕えようとしている。今を。ひたすら閉じ籠り閉じ籠り、世界は益々内心してゆく。


閉じて行く世界と、広がり続ける世界を、繋いだのは窓ではなく声だった。


「    」


私は笑う。
誰かが笑う。


なにもない、があるこの世界に、立っているのは誰だ?
全てが揃っていながらも、全てを隠す世界はここだ。
友よ、同じ窓を見た旧友たちよ。全ては過去になる。全ては記憶になる。旅立たねばならぬ。かつての場所を棄てて。
私は道を外れよう、この場所からは、かつて共に夢を見ていた窓は見えないのだ。


『予定通りに着く。私はどうすればよい?』
『いつもの道を向かってくれ』

携帯電話をぱたんと閉じる。のんびりと立ち上がる。歩き出す。草のにおいがする風が吹く。排気ガスが流れる。信号の向こうを見る。見慣れた顔が見える。

(「ただいま」)



いつか道が交差し、再び同じ夢を見ることが出来るときまで、今は暫しの幕間である。

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