当然だが、事実は別の形を持って、私の前に提示された。
不思議なことにそれは――心臓の言葉は――予想外のことだった。それ故に、動揺はしなかった。本当に面食らった時は、動揺した、と思う間も無いのだ、と、今はぼんやりと思う。
事実は、語る人間によって形が変わる。
それは事の本質的な変化を指すものではなく、何かを語る際に必ず含まれる、善意や悪意といったスパイス、それは主観とも言い換えられるけれど、それが語る過程で、事実それ自体の見た目を変えてしまうというただそれだけのことで、故に形が変わったからといって、それが必ずしも虚実であるわけではない。
そしてそれは、無限の可能性を秘めている。
その後はというと私は、不用意な行動をとった過去を半ば客観的に見ながら、致し方あるまい、と、奥歯で噛み砕いていた。
「此方にその意図が無くたって、彼方がそう受け取ったのなら。それは紛れもなく事実なのだ。彼女は嘘をついてはいないし、その点に於いては、悪意があったわけでもあるまい。」
事実、それ以外に関しては紛れもないことだったし、彼女に責めるべき点は見当たらなかった。私がいけないな。そう言うと、オアシスは面食らった顔をした。ジョーカーは、自己犠牲的だ、と指摘した。
(うん?)
この部分の事実だけ取り出せば、被告と原告は逆転してしまうらしい。それは彼女にとっても私にとっても心外なことだったから、兎に角黙ろうと思った。過去を蒸し返すつもりはなかった。それが筋というものだし、実際暫くの間はそうしていた。
「彼女の言葉は真実だ」
そう呟いた。のだが。
「君の好意を彼女は知っている。けれど、君はそれに――彼女が好意に気付いたことに、気付いていないのではないかって、」
彼女が。
(だとしたら、私は果たして、彼女に告白をしたのだろうか)
その引っ掛かり全てを言葉にしてしまうのは躊躇われ、しかしそれでも口にせずにはいられない。「そう言ったということは、本当は分かっているんじゃないのか――」
私に、告白の意図がなかったということに。
『そう、彼女は言っていたよ。 に告白されたって』
あれから三月以上も経っていた。丁度、彼女が私の「告白」から置いたのと、同じ期間だった。