「……でも、本当に彼女が好きなら、私はこんなこと言うべきじゃないんだ。」
船頭は目を細めて頷いた。「大丈夫、私は誰の味方でもないから」
そう、船頭も、彼女と同じようになにもしないだろう。完璧な中立。この箱では珍しい人間だった。
「……でも今回に関しては、若干 に、」
「いや違う。駄目だよ。彼女が何をしようがだからといって、私が悪いことには変わりはないんだ。私がいけない。迷惑をかけたのがいけないんだ――」
慌てて発せられた言葉に丁寧に耳を傾ける船頭は、紛れもなく旧友のそれだった。
船頭は空を見た。私は床を見た。彼女に対する二つの思いが巡り、揺れた。
「船頭は彼女の言葉を信じるべきだと思う」
何故ならこの箱の中では。
重要なのは通りでもなければ理屈でもない。
「船頭は、彼女の友達なんだから。」
彼女が事実を話したのか、私が事実を話したのか、それが事実なのか、私と彼女以外の人間には誰も確かめようがない。今となっては、何が事実かもわからない。それならば、失いたくないものを、信じれば良い。疑いたくないものを、信じれば良い。彼女のように何も知らない振りをして。
笑えばいい。
「さっきも言ったけれど、私は彼女とはあまり話さないんだ。それに、『四人で』仲が良いわけでもないんだよ」
「うん、うん、知っているよ――見ていれば分かるもの――」
そしてそれ故に、私と、星と心臓と船頭の繋がりは、余りにも悲しい。
誰か私の言葉を、烏滸がましいと責めれば良い。けれど、他人行儀な級友たちはそんなことを言わない。面と向かっては、決して言わない。それが無性に、怖かった。
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