「ああ、確かに言った。」
心臓は全てを知っていた。
(私が何故彼女に好意を抱いているのか。あの時何があったのか。私がどうしたのか。確かに私が彼女に話したことだ。したことだ。間違いのない、間違いのないことだ、確かに。)
「晒されていたのか」
そう言った私に、心臓は、悲しそうに謝った。
「私は。ずっと。面白がられていたのか――?」
何年も私はそれを恐れていた。そして恐怖を感じる度に塗り替えては、前に進んできた。懐かしい、それは最早過去のことだった。
毎日が戦争だったあの日々。私たちは戦争をしていて、私は見えない何かと戦っていた。
過去と今の狭間で、滅茶苦茶に、こぼれた剣を振るっていた。
「――私は昔彼女を疑ったことがあったんだ。しかし実際は、私の考えていたことは被害妄想でね。自己嫌悪に浸った私はそれ以来、ヒトではなく「彼女を」信じることに、したんだ。」
感情的な言葉が空っぽの箱に響く。信じる、とは。なんと独善的で、なんと烏滸がましい言葉だろう。その言葉を言う権利が、人にはあるのだろうか。
否、私には、あるのだろうか。
「私はどうしようもない馬鹿野郎だ」
因果応報、それ相応のことをしたにすぎないというのに。
「涙目になっているよ」
「……ああ、確かに涙目だな、私は!」
「そうじゃなくて、」
本当に。
私は目じりに指を滑らせた。確かに冷たい液体が、皮膚についた。
本当に驚いた時は驚いたと思う間もない。本当に悲しい時は悲しいと思う間もない。
ただその時の私は、切り札がもう殆ど返されていることだけを実感し、その涙の意味を、知る術はなかった。
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