彼女はその時失望しただろうか。期待外れだと、溜め息を吐いたのだろうか。
そして私と彼女は別れた。人がごった返すホームの中、私は意識して彼女の背中を見ないようにしていた。
(彼女はきっと何も判ってはいるまい。判る気もあるまい。ならば、いずれこの事実は私を殺すエースになるだろう。私を卑怯だと罵るか。いずれは。今まで通りの、その笑顔で。)
そんな暗雲が私の脳裏を駈けた。暫くの間そうしてから、私は携帯電話を取り出すと、文字を打った。六回推敲し、七回細かい訂正をしてから液晶を閉じる。
『……今日は有難う……感謝をしています……』
(いけないな、彼女はそんなに悪い人ではないだろう? 彼女を信じろ、人間不振の****!)
ネガティブな考えをそこで振り払い、私は意識して口角を上げた。「私はなんという幸福者だ!」
暗雲はそれっきり私に近付くことはなく、私のまわりを遠慮がちに蠢いていた。
「私はどうにも、最悪の状況を考えてしまう癖があるようだ。前向きに生きるようにしよう。人間はそんなに、怖いものではないのだから!」
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