「たまにきみは、すごくさみしいねえ――」
「なんでそんなにお菓子を持っているの?」
鞠はおかしそうに聞いた。
そういえば確かに、私はなにかと菓子を持っている。そして配る。
最初は、必要最小限の間食として携帯していたのだ。
割安な袋詰めの物だとか、一人で食べるような栄養補助食品。小腹が空いたときの繋ぎだった。
それがいつの間にか、銀紙に包まれたチョコレートだとか、色とりどりの飴だとか、小分けにされた可愛らしいものに取って代わられ、気がつけば私は、何かと甘味を配る人間として認識されていた。あげたいからじゃないかな。私はぼんやりと答えた。
「だれかに、あげたいからじゃないかな。」
菓子を買うときに、誰か、を想定するようになったのは、いつからだろう。
誰か。それはオアシスだったかもしれない。桜だったかもしれない。特定の誰かなど、いないのかもしれない。しかし、それでも、誰か、の中には内包されている人間がいるのに違いはなかった。しかし私はそれから目を背け、ただ、自分のためだ、と、笑う。
(ピンク色のパッケージ。カラフルなキャンディ。着色料のかたまり。砂糖を濾したようなゼリー・ビーンズ。それから。)
(金色の包み紙のチューイング・キャンディ。銀色の包み紙のキシリトール・ガム。五粒百円のチョコレート。)
「いや、でも。きっと本当は、ある人にあげたいんだ。けれど、それが出来ないから、こうして鞠や皆にあげるんだ」
鞠は目尻を下げて少し笑いながら、冗談のように言う。
「たまに は、すごくさみしいね」
「え、」
「ふとした瞬間の発言が。なんだかさみしい」
『私は、淋しい人間です』。
そんな言葉が、頭を過った。
「いや! 私は恵まれている人間だよ。世界の裏側の、明日生きるのもままならない人たちに比べたら。十二分に幸福者だよ――!」
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