トラント・セットは泣きながら、帰りたい、と言った。
ノーヴェはそう、マリアさまのように佇んでいて、大丈夫だよ、とほほえんだ。
「もう、僕はここにはいたくない」
トラント・セットはホットミルクの底をじっと見つめて、やっぱり泣きながら言う。
ノーヴェはやっぱりほほえんでいる。でも今度は大丈夫だよ、とは言わずに黙って黒い目を向けた。
「でも、君の居場所はここしかないんだ。ここを出てどこに行くんだい?」
ノーヴェの言葉に、トラント・セットは、ひ、とひきつった声を出して、それから水を溢してしまったようにわんわん泣いた。
それでもノーヴェは、ただほほえんでいるだけだったけれど、トラント・セットはノーヴェが変だとは思わなかった。
「さめちゃうよ。はやくおのみ」
トラント・セットは黙って従うしかなかった。それ以上言葉を続けられずに、白い液体を飲み込んだ。
ノーヴェはかみさまで、トラント・セットはかみさまを否定することは出来なかったからだ。