忍者ブログ

それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

2024.11│123456789101112131415161718192021222324252627282930

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

10月10日 線前雨秋


トレーナー、貸そうか。その一言が言えずに、れんしゅうしましょう、と声をかけた。

他の人間であればしたし、それをするべきであったのだが、背中を擦ることすらしなかった。単純に接触を許容出来なかった。ひどく潔癖になっていて、能動的に触ることができない。そしてなんとなく、彼女は下手に出る人間には尊大な態度をとるのかもしれないと、そう思った。その実、無意識の怯えた態度がそれを導くのだとも知っていたが、共通認識とどちらが強いのか、今は分からなかったし、考える必要も無いと思った。

拍手

PR

11月5日 所有物


『おそらく――人間と思っていない――所有物だと思っている。キープしておきたいんだよ。近付けばおかずにされる。離れれば干渉される――面倒だね』


いや、むしろ、何の関心もないのだ。

私はやっと、無言語の領域を共有することができ、改めて自分の心に触れた。そしてそれが予想以上に荒んでいたことに気づく。事実が事実として胸の中に現れていた。わだかまりが溢れ、頬に熱が染み、腹の中で何かが収縮していった。


『君はどうしたい? 打開か現状維持か、どちらしかあるまい』
『、わたしは――』


知っている。打開するその行動さえも、話の種にされると。もうどうすることもできない。話を聞く気が無い人間に何を言っても無駄だと――三人とも分かっているのだ。

「私は、私を変える」

それしかない。それで良い。だから、私は、いつものように黙っている。因果応報、四面楚歌、それでも、私の話を聞いてくれる人がいる限り、私はまだ眠ることが出来るのだから。

(それでも好きだと言えれば良かった)(それくらい盲目でいられたらよかった。)

拍手

11月16日 タイガー・ホースの再会

厭な空気が充満していた。エース、船頭。強烈なデジャヴが襲い、足に力が入らなくなる。7月が背中を締め付ける。コートの真ん中で、毬は冷めていた。
(だとしたらもう、私が走る意味もあるまい)
否、でも。

私は走った。もうボールが回らないことはわかっていた。もう勝てないとわかっていた。が、走った。縦横無尽に走り回って奪ったボールを籠に捩じ込んだ。たかがこんなことに本気になるのだと、傍聴席ではきっと笑いものだ。それでもいい。それでも、もう何にも負けたくはない。チームの本気を無駄にはしない。敵の本気に応えたい。でも、もう。


がむしゃらにボールをついて、滅茶苦茶にボールを放ると、体勢が大きく崩れる。ついたマークをかわす気などない。
(――まさか)
その時初めて私は、先ほどから粘り強くついていたマークを見た。
「――もしかしなくても、」

リングの縁を一周し外に零れたボールを、ぼんやりと見ながら私はゆっくり膝をつく。その瞬間、ブザーがけたたましい音をたてる。



恣意的であるかどうかなど確かめようがなかったが、そうだとしたら心臓や星は利口だ、と思う。私は友人達の期待に沿うために、きっと膝を折っただろうし、実際、それに気付いた今、確実に集中力を殺いでしまった。

拍手

11月16日 杭

うるり、と涙を滲ませた毬は黙って重苦しい空気を纏っていた。益々日本人が嫌いになる、と苦々しく呟いた。負けず嫌いで完璧主義者の毬は、相当悔しいに違いない。それは結果にではなくて、他の二つのチームの態度に対してなのだ。私はどんな発言をすべきか一寸迷い、沈黙した。
(エース達がいたから、あの時は楽だったんだ)




「けがとかしなかった?」
「――なんの?」
「さっきの、バスケ」
「ああ、全然大丈夫!」
「皆怒っていて、」
「気にしないほうがいいよ! 皆熱くなる人たちだから」

所詮些細なことなのだ。いつだって気にするのは傷ついた方だった、と、私は心の中で溜め息を吐きながら、彼女に背を向けた。
毬の気持ちを分かる人がもっといればいい、と思った。

拍手

11月19日 ムーミン・トロール

「大丈夫?」
と、狐が目の前で手を動かした。最近はめっきり少なくなっていたけれど、どうやらいつのまにか物思いに耽っていたらしい。(大抵自分ではそれに気付かない。狐に指摘されて、やっと気付く) だいじょうぶ、だいじょうぶ、と早口で繰り返すと、狐は冗談として言った。「君はいつも、大丈夫じゃないときにそう言うよ!」


顔が微かに火照っている。鏡を覗いた私はうっすら赤い頬をしていた。
内向的になったぶん頭ではなく心で考えていて、直接的な感動は言葉ではなく体に現れるのかもしれない。そうだ、言葉も身体も嘘を吐けるけれど、より正直なのはいつだって無意識だった!


冷たい手で頬を冷やす様子は、きっとまるで恋をしているようなのだ、と、私はくすりとわらう。
なに、悲しむこともない。考えることもない。ただ、それだけでいいじゃないか、と、語ったアートを思い出していた。

拍手

11月12日 虚を突く

ありがとう。

病的な被害妄想、むしろ病と言った方が良いそれが、また私の心の藏に噛みついてくるかと思われたが、秒針が一周したころにはさっぱりと消えていたので、私は、それで良かったのだ、と思った。
他人に対するには冷たすぎる反応であったけれど、きっとそれで良かったのだ。

拍手

11月21日 テグス糸

寝ぼけた彼女は私の見えない場所を見ている。その黒目は普段より、三ミリ程左右に離れた場所で留まっていて、今度こそ読めまい。別のことを考えているのかもしれない。何も考えていないかもしれない。何を思っているのか。嗚呼、鹿の目。深奥に光を湛えたそれに気付いた。それは意味を与えない、代わりに決定的な孤独を与える。

柔らかいテグスのような髪はあまりにも無機質だった。


できれば溺愛していたい。
それでも私は彼女がすきだったし、失った以上に沢山のものを貰っていたからだ。

拍手

うそ 11月28日

少し眠い。トラント・セットはそう言って目を瞑った。寝ると良いよ。ノーヴェは馬鹿みたいに言った。酷い嘘つきだ、とトラント・セットは思った。眠れば起きられないことは知っていた。
けれど、トラント・セットは眠ることにした。その時のノーヴェが優しかったのと、トラント・セットはひどく忘れっぽい性格だったのとで、昔はなかったことになっていたからだ。

拍手

11月30日 敏勘 1

船頭は助け船を出した。
「あっちのほうには扉が見えるんだ」
「扉?」
「そう、妄想のね!」



「集中していない  の観察をしていたの!」
苦笑しながら顔を上げた。東北も笑う。屈託なく笑う。来るべき時が来た、しかしそれは嫌味も皮肉も悪意もなかったので私は笑った。
「あっちのほうをちらちらみていたでしょう!」
それは事実だった。しかし私は言った。見ていないよ、と笑いながら言った。焦ってなどいなかった。
何も思わなかったのだ。


「かたおもいをしているの、」「だれにかたおもいをしているの、」「くすくす、」「かわいい、」「かたおもい!」

「していないよ。かたおもいなんて、していないよ」

顔を伏せると船頭は助け船を出した。勘の良い船頭。優しくてそれでいて敏感。故に彼女は、中立を決め込む。だから私は信じている。彼女は彼女に、何もしないと知っているのだ。


エースはじっとしている。鞠は談笑している。彼女は勉強をしている。私は、ただ、わらっていた。

拍手

笑み 11月27日

トラント・セットは泣きながら、帰りたい、と言った。
ノーヴェはそう、マリアさまのように佇んでいて、大丈夫だよ、とほほえんだ。
「もう、僕はここにはいたくない」
トラント・セットはホットミルクの底をじっと見つめて、やっぱり泣きながら言う。
ノーヴェはやっぱりほほえんでいる。でも今度は大丈夫だよ、とは言わずに黙って黒い目を向けた。
「でも、君の居場所はここしかないんだ。ここを出てどこに行くんだい?」
ノーヴェの言葉に、トラント・セットは、ひ、とひきつった声を出して、それから水を溢してしまったようにわんわん泣いた。
それでもノーヴェは、ただほほえんでいるだけだったけれど、トラント・セットはノーヴェが変だとは思わなかった。
「さめちゃうよ。はやくおのみ」
トラント・セットは黙って従うしかなかった。それ以上言葉を続けられずに、白い液体を飲み込んだ。
ノーヴェはかみさまで、トラント・セットはかみさまを否定することは出来なかったからだ。

拍手

カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
ブログ内検索
アクセス解析