厭な空気が充満していた。エース、船頭。強烈なデジャヴが襲い、足に力が入らなくなる。7月が背中を締め付ける。コートの真ん中で、毬は冷めていた。
(だとしたらもう、私が走る意味もあるまい)
否、でも。
私は走った。もうボールが回らないことはわかっていた。もう勝てないとわかっていた。が、走った。縦横無尽に走り回って奪ったボールを籠に捩じ込んだ。たかがこんなことに本気になるのだと、傍聴席ではきっと笑いものだ。それでもいい。それでも、もう何にも負けたくはない。チームの本気を無駄にはしない。敵の本気に応えたい。でも、もう。
がむしゃらにボールをついて、滅茶苦茶にボールを放ると、体勢が大きく崩れる。ついたマークをかわす気などない。
(――まさか)
その時初めて私は、先ほどから粘り強くついていたマークを見た。
「――もしかしなくても、」
リングの縁を一周し外に零れたボールを、ぼんやりと見ながら私はゆっくり膝をつく。その瞬間、ブザーがけたたましい音をたてる。
恣意的であるかどうかなど確かめようがなかったが、そうだとしたら心臓や星は利口だ、と思う。私は友人達の期待に沿うために、きっと膝を折っただろうし、実際、それに気付いた今、確実に集中力を殺いでしまった。
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