少女は垂直に跳ぶと、ジャングルジムに飛び付いた。不思議なことに、ジャングルジムは逆さになって空にくっついていた。
ジャングルジムだけではない。
滑り台もブランコも、皆逆さになっている。
少女は気が付けばジャングルジムにきちんと座っていたから、正しく地面に立っているのは私だけになっていた。世界が全てひっくり返っているのだ。
「みかなちゃん。君のことと、君が彼女と呼んでいる、あの子のことについて教えてよ」
少女は、滑り台に飛び移りながら楽しそうに尋ねた。
「みかなちゃん。この二週間、君はあの子と何をしていたの?」
「野宿」
私は投げやりに答えた。
「彼女は私のクラスメートだよ。あまり話したことはなかった。変な人。面白い人。おかしくなった頭を治すために、修道院の鐘ががんがん鳴る四時間目にどろんと消えてしまった。十日後また現れて、私を連れ去った」
「なんのために?」
「分からない」
少女は思案するように頭を捻ると、何処からともなく紙パックのオレンジジュースを取り出してきて、私に放った。「飲んで」「ありがとう」
「あの子はとても良い子だよ。真っ直ぐで、初志貫徹する。人の気持ちが分かる」
「そう。良い人だよね」
「みかなちゃん。君はあの子のこと、好きだった?」
「好きだよ」
少女は私の言葉を聞きにっこり笑うと、滑り台から飛び降り、私の前に立った。
そして私の首に抱きつき、首筋に手を沿わせた。
「君じゃ夢の続きになれないんだ」
いつも夢に出てくる、抱きついて泣いていた誰かはこの少女なのだと、その時気が付いた。
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