「彼女は、 は面白いね、って言っていたよ」
「ああ、善かった。それくらいですんでいるんだね!」
軽い皮肉を込めて言う。
(それは彼女と自分に対してだ。その時は白々しいとは思わなかったのだが、後々考えると酷い話である)
アートはいつも海を待っている。
誰もいないこの箱の何処かで、下校時刻の過ぎた人気の無い箱の中で、海が自分を探しに来るのを、待っているのだ。
東と帰ったあの日、残された靴を見て海が何と言ったのかアートは知らないし、海がアートのシャドウ・ボックスを持っていることは、彼女だけではなく他の人間も知るまい。
『海は絶対に拒絶はしないよ。彼女が私にそうしないのと同じ理由で』
アートはその意味を考えたのだろうか?(否、ジョーカーの話を聞く限りでは考えてはいまい)
考えるべきだ。他人のことならよくわかるだろう。私の行動なら非難も出来るだろう。人の気持ちが分かるまっすぐなアートなら、気づけるだろう。
私のその言葉を免罪符にしようとは思わない。
海は彼女のようにすれた人間ではないし、近い人間でもない。他人行儀。アートはそれゆえに傷付くのだろう。しかしそれは致命傷にはなるまい。海は決定的に大人で、彼女は子供なのだ。
『私は 君の優しさに 甘えている気がする』
気がする、ではなくてそれは事実だとあの時も知っていた。彼女がそれに対する返事を返さなかったことも知っていた。
しかし、彼女がその意味を軽視していたことには、気づけなかった。
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