無性に悔しくて仕方がなくて、それが怒りに変わる前に、私はなんとか涙に落とした。眠たそうな振りをして、綺麗な水で、汚れを流した。
(『悔しいね』)
(『ちがうの。仕方がないの。でも。』)
アート。真っ直ぐな人。声を上げて泣いた私の背中に触れてくれた。それだけで十分だというのに、そんな人が傍に居てくれるだけで十分だというのに。何故私は、他のものを求めていたのだろうか。
しかし今日はアートはいなかったから、一人で硬直した身体を出来る限り固めようと努力した。立ち去れない。能動的に、かつスマートに動かなくてはならない事実が、余計に私を落ち着かなくさせていた。そわそわと身体を動かして、無意味に笑顔で人に干渉すると、皆、愉快そうに笑った。「良いことでもあったの?」
(『誰かと話すために、私の話を、使ったたことが、怖いの。』)
機嫌が良い、のではなくて緊張が過ぎてそうなっていたのだが、私を含めてそれに気付いた人はいなかった。今も昔もそうだった。
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