最初の一回の切っ掛けなど、単なる気紛れに過ぎないのだろう。結果としてそうなっただけで、深い意味もなければ、追い詰められていたわけでもなかった。が。私は。なんの意味もなくそうした。彼女は笑った。どうしたの、と問い、私は答えた。なんでもないの、なんでもないの。彼女は優しく背中を撫でた。
しかし今私は知っていた。笑顔の裏の真意を。
それでも相対している間は、例の病的な被害妄想も不信感も何もなく、過去も未来もなかったので、私は負ではない別の感動に充たされ、少なくとも不幸せではなかった。
この瞬間が永遠に続けば良い、と思った。惨めな過去も、惨めになるであろう未来もない、隔絶された「今」だけが永遠に続けば。
そんな願いなど無意味だったが、私はそう願った。
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