電車が低い振動と共に止まり、人を吐き出し始めた。ヘッドフォンを片手で外すと、鞄の持ち手に引っ掛ける。メトロポリタンの巨大要塞は人を吸い込んでいき、一方箱の中は宴の後のように閑散とした。
何時もと同じように目を相対させていて、何時もとは違うことをする。ただ、彼女は表情を変えなかった。それは予想内のことなのだと、暗に示すように。
確かに、確かに互いに意識を向け合っていたのだと、ぼんやり私は確信する。無意味なものではなかった。だからどうした。どこからかワタヌキの声がする。
ねえ、これは停まる?――多分停まるよ。私は乱暴に彼女の隣に腰を下ろした。そして沈黙が流れる。
さあ、どうしよう。私は静かに考える。
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