まず最初に、その声が誰に対してむけられたものか考えた。ここには二人しかいなかったから、私かもしれないと思った。次に、言葉の意味を考えた。何を言わんとしているのか分からなかったから、彼女の目を見た。それには意味を込めたけれど、おそらくそれは言葉の意味を問うものではなく、最初の疑問を込めていたのだ――とにかく、じっと目を見ていた、お互いに。今日も先に耐えられなくなくなったのは私だった。私が視線を逸らすのと彼女が言葉を繰り返すのはほぼ同時で。
「コンタクトだ」
「……、」
「ほら、最近していなかったでしょう」
「……ああ」
感想を、よく人を観察しているのだ、という程度に押さえつけて、私はぺらぺらと言葉を紡ぐ。彼女も珍しく饒舌に話す。このように無意味な会話など、未だかつてあっただろうか。
椅子に座りながら微動だにせず、表情を殆ど動かさずにいる(少なくとも私はそう思った)彼女は、私を落ち着かなくさせた。似ていたのだ。あの時彼女が、心臓に話していた様子と。重石を押し付けられたような心持ちがした。
私のことはあまり気にしないでね。様々な想定を含意したその答えが、中々打ち込まれなかったので私は顔を見た。なるほど、考えている。その目は寝起きのそれと同じで、今と重なった平行世界を見ていた。
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