それがどこから聞こえたのか分からなかった。ほんとうに。
声は確かに彼女のものだった。だから遠くを探した。しかしやはり、ここに入るときに確認したように、席にも輪の中にもいないのだ。ぐるりと辺りをみまわして、そして私は盲点に気付く。顔を、目を、見ることが出来なくて、怖くて、私は視野で隣を見た。違います。心臓が描いたんです。心臓が。――ええ、そうなんです。だから、すごいのは心臓なんです。――うん、でも、私じゃなくて心臓なんです。
Kが心配そうに私の頭を撫でた時、初めて、この想定外の状況で、自分の声が震えていたことに気付いた。
そして彼女が、自分が優位に立っているという自覚を持ったことにも、気付いた。実際それは本当のことだった。
細かい機敏を言語化することは出来なかった。その権利は、私にはなかった。明らかに非があるのはこちらだった。
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