忍者ブログ

それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

2024.11│123456789101112131415161718192021222324252627282930

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

無邪気 12 月6日

トラント・セットとノーヴェは、公園で遊んでいた。
逆さまにした籠を木の枝で支えておいて、籠の下にはおいしそうにパンくずを巻く。枝には糸が結んであり、先はノーヴェが持っている。
小鳥がパンくずを食べようと籠の下に入ったら、糸を引く。木の枝は外れ、籠を落とす。籠は小鳥を捕まえる。

「小鳥はばかだね。こんな簡単な罠に気づかないんだもの」
ノーヴェは小声で言った。今日で五匹目の小鳥が、籠の中に入ろうとしているところだった。あくまで無邪気にしているノーヴェを見ながら、トラント・セットは、ぎゅ、と眉を寄せた。
「ばかなもんか――小鳥にだって知恵はある」
不愉快そうにしているトラント・セットには気付かずに、ノーヴェは、やった!と声を上げた。「五匹目だ!」

ノーヴェは籠を僅かに開けると、きょとんとしている小鳥に頬を寄せて何事か呟き、そして直ぐにそれを逃がした。小鳥は躊躇うようにノーヴェの回りを二周した後、遠くへ飛んでいく。

「ねえ、捕まえるでもなしに。何が楽しいの?」
「『捕まえる』ってことがね!」
あっけらかんとしたノーヴェに、トラント・セットは、不愉快だな、と心の中で言った。それから顔を背けて、それきり二人は喋らなくなった。ノーヴェは小鳥を捕まえるのに夢中だったし、トラント・セットは怒っていたのだ。


長針が一周した位で、ノーヴェが、あ、と声をあげた。トラント・セットは振り返った。怒ってはいたけれど、ノーヴェの声には応えなければならなかったのだ。
困ったような表情を浮かべて、ノーヴェは、どうしよう、と言う。
「どうしよう、この鳥、飛ばないんだ」
トラント・セットは籠のそばに行って、小鳥を見た。小鳥は、籠から半分頭を出して、ぴくりともしない。トラント・セットが指の先で頭を撫でても、微動だにしなかった。
可愛そうな小鳥。運悪く籠に首を挟んで、死んでしまったのだ。


しんでしまったんだよ、と言ったところでノーヴェにはその重大さが理解できまい。トラント・セットは、眠っているんだよ、と言って静かに小鳥を手のひらに乗せた。
その拍子に小鳥の口から何かがぽろりとこぼれた。摘み上げてみると、どうやらパンくずのようで、トラント・セットは、もしかしたら小鳥は、それが罠だと分かっていたのかもしれない、と思った。それでも、空腹を癒すために、罠に飛び込まざるをえなかった小鳥が可哀想で、トラント・セットは静かに泣いた。

ノーヴェはあいかわず糸の端を持っている。やめなよ、もう。そう言うべきなのは分かっていたけれど、トラント・セットは何も言えなかった。トラント・セットはもうすでに、首を挟んでしんでいたからだ。

拍手

PR
*COMMENT-コメント-
*COMMENT FORM-コメント投稿-
  • この記事へのコメント投稿フォームです。
Name:
Title:
Mail:
Url:
Color:
Decoration: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Message:
Pass: ※編集時に必要です。 
*TRACKBACK-トラックバック-
  • この記事のURLとトラックバックURLです。
  • 必要に応じてご使用くださいませ。
この記事のURL▼
この記事のトラックバックURL▼
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
ブログ内検索
アクセス解析