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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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12月10日 記憶喪失 2

ひたすら相槌を打ち続けた。
それは他のクラスメイトや、そうでない人達――なんにせよ話を振る人のそれと同じで、ただそれは、余程の話題を持ち合わせていない限り、あっさりと終わる。そして案の定一つの話題が尽き、静かになった。

沈黙は苦ではない。むしろ甘受したい。が。気が付けば手を神経質に触っていた。柄にもなく緊張しているのだ、と分かれば、それは単なる戸惑いに近いのかも知れないということに思い当たる。ごお、と、電車がレールを擦る音が耳についた。

沈黙を苦にするか否かが親しさの指標なのだ、とは誰の言だったか。全くの嘘だと思った。沈黙を甘受できるけれど、私と彼女は親しくない。


「……ずっとこれだよね」
「そうだね、四年くらいこれだ」
銀色のフックにかかったキイ・ホルダーを丁寧に指先て玩びながら、ふとした拍子にふわふわとした感覚に襲われた。その状況を客観的に見ている自分が、顔をしかめさせる。キイ・ホルダーから手を離し、よったしわを伸ばそうと人さし指の横腹で眉間にさわると、彼女が不審そうにこちらを見た気配がした。深読みをされたかもしれなかったが、特に何も言わなかった。


ばいばい。そう言った彼女の顔を見ずに、私は手を上げて応える。礼儀がなっていない。相手の目を見て話せ。と、自分を正したところで遅かった。のろのろ電車が走り出す。

私も大概馬鹿だな。そう呟いた。

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12月11日 喉元過ぎて熱さ忘るる

困惑。遠慮。意外。それを見て私は安心した。彼女にとってそれが予想外であったことに、とても。だからその時は、それをどう誤解されようと深読みされようと、それで良いと思ったのだ。もしかしたら、もしかしたら。彼女はもう、そんなことを言わないでくれるのではないかと、そんな馬鹿な期待をしてしまったのだ。

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12月12日 それはきっとお互いに

(意識をむけていたのは、なるほど、意識をむけられているのかどうか、確かめるためだったのだ。)

(それが確実だとわかった今、最早確認する必要もなくなった)


しかしこのすきま風は、どこから吹いているのだろう。

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12月16日 不死鳥 1

賢い人間は、大抵規則を持っている。比喩的なそれではなくて、本当の意味で。
例えば、教科書を入れる順番。起床時間。服の着方。筆箱の置き方。使う文房具。帰宅時間。意識してはいなだろうが、結果として規則という習慣に乗っ取っているのだ。

それから例えば、鞄をかける向き。彼女はどうだったかと、なんとか思い出そうとしたが、あまり思い出せなかった。実際それは些細なことだ。過去にせよ今にせよ。





目があった。

私はそれを意図的にしたはずなのに口角は固まったままでいて、結局私のほうから目を反らしてしまう。これじゃあただの不審者だ。

(ありがとう)

本当に言いたい言葉は感謝の気持ちであるのに、理屈張った頭は、言い訳と予防線を紡いでいる。

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11月16日 不死鳥 2



(……特別特快。通勤快速。各駅停車……)


『ねえ、止まろう』
『……』
『切ないんでしょう』


今日は晴れている。空が青い。悲しいくらいに澄んでいる。電車の発車時刻を告げるランプと、駅名がずらりと並べられた表示板を見比べながら、暗算をする。到着は32分になりそうだった。


(……特別特快。通勤快速。各駅停車……)


『だいじょうぶだよ、もう。いいんだよ。』


表示板の上で、視線が滑った。『毬。私はね、』

私は懲りないんだ。何度でも何度でも繰り返す。たとえ仮面の下で私を罵ろうとも、優しければ。不死鳥のように生まれ直すんだ。何度でも、何度でも。ばかだね、私は。本当に、ばかだね……


(……特別特快。通勤快速。各駅停車……)




「私が今ここにいるのは偶然だ。あの日も勿論偶然だった。けれど、彼女はそうは思わない。私もそうは思わない。だから、彼女は、今ここにいないのさ。」

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12月17日 満月兎は、北斗七星の夢を見る か?

それは単なる談笑だった。決して込み入った話ではなかった。完成した作品を鑑賞していて、やれ、これはセロファンを使っただの、折り紙はこう切っただの、クリエイティヴな精神を持つ人間同士の、単なる談合だったのだ。その人間というのが、偶然、心臓と星だったというだけで。勿論私はそれと、よもやま噺以外の話をしていない。

「凄い。細かいなあこれは」
「それにセンスが良い! センスがあって、さらにそれを形に出来るというのが凄いよ」
「全くだね」
「この写真は、」
「予備校の。こうして見ると綺麗に見えるけれど、」
「実際はぼろいんだよね!」


(ただ、それだけなんです。あなたの話なんてしていませんでした。貝ともそうでした。ねえ、――サン。ごめんなさい。私がかつてそうだったように、あなたも私が、怖いんでしょうか。)


『四人で仲が良いわけでもないんだよ』
じゃあ、境界線を越えなかったのは、彼女なの? と、私はあの日の船頭に尋ねた。

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12月21日 赤ワインの集い

ニコさんは鮭子さんが離れるのを止めはしないだろう、と鮭子さんは思っている。私はそうは思わないけれど、鮭子さんがあまりに確信をもったふうに言うので、そうなのかもしれないと思えてくる。そうだとしたら、私もニコさんに置いていかれるのかもしれない。

ニコさんは飄々としていて掴み所がない。口は上手く動くし、話している人をを愉快な気持ちにさせる、けれど、本心は悟りにくい。裏表がないから、どれも本心だと言える。鮭子さんは八方美人だと表現した。

ニコさんは鮭子さんの愚痴をあしらう。いちおう、聞いてはいるけれど、心から理解しようなんて思っちゃいない。間違っても同化はしない。自分の道を行く。だからといって、ニコさんは鮭子さんが嫌いなわけではない。愚痴を聞く気がないのだ。それは向上心があるからではなく、興味がないだけなのだけれど。勿論私に対してもそうだったから、私はニコさんが好きだ。

「鮭子さん、鮭子さん。それはニコさんの口口上じゃないの?」
鮭子さんは顔をしかめて首を捻った。鮭子さんはというと、こんなふうに過去を記録していて、絶対に塗り替えないし、デリートもしない人だ。正確に過去を引き出しては、完璧に理論を組み立てる。そして向上心のない人間が嫌いな強い人だ。そこがワタヌキに似ていたから私は鮭子さんが好きだ。


一事が万事こんな調子で、でもなんだかんだで私たちは一緒にいる。今までもそうだったから、これからも、当分はそうにちがいない。

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12月22日 あきばこと白衣

兎に角、少し眠りたかった。目は既に細くなっていたし、キャパシティ・オーバーした頭は、急速に回転を止めていた。ただ、今眠るわけにはいかなかった。(考えろ。考えろ、何が最善かを。)だからといって。疲労を止められるわけがない。考えるから疲労するのだ。私は思考を止めた。行動は総じて悪い方へ転がるのだ。今までもきっとこれからも。それに今は、そんなことをしている場合でもない。


寂しい、と言ったアートは、白衣がちらつくたびに意識を持っていかれた。寂しいね。私も応える。海先生に会えないものね。アートは少し黙って、ことこと笑った。ああ、そうだよ。蟹先生にも会えないからね。
そして二人で口をつぐんだ。暫くアートは机に伏せて、私は伏せたアートのうなじを見た。兎に角、少し眠りたかった。


「でも」私はふと言った。
「でも、安心しないかい?」
「……厭なことを言うな、この子は」
アートは投げやりに笑った。

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12月22日 時効自得

泣くといいよ。わんわん泣いていいんだよ。東北は言った。その言葉を聞くのは二度目だった。あたたかくて優しくて、一つひとつの言葉には意味があり、それは心に染みた。だからそれに甘えないように、首を振って拒絶を示した。「私がいけないんだ。なのに、泣くなんて。それはとても自己中心的なことだよ……」。東北は何も知らない。何も知らないから、私にそんな言葉をかける。私を肯定しようとする。


『――――――――――!』
泣き出した私を抱えるように抱き締めて、アートはその時泣いていた。重なったのだろうか、何かが。そして私は知った。アートに依存心などない。ただアートは、優しく感受性豊かで、誰かの気持ちに同調しやすいだけなのだ、と。


「辛いときは、思いっきり泣いても良いんだよ。意味は無いのかもしれないけれど、我慢することなんてないんだから」


アートでない誰かなら、その時どうしただろうか。きっとこう言ったのではないか。「それは考えすぎだ。気にしない方がいい。彼女は君を、嫌いなんかじゃあないよ」。そして私は後悔する。甘えたことを後悔する。


いくら待ち続けても、時効は来そうになかった。この箱を出た後さえも、私の懲役は続いているに違いない。
許して欲しい。この箱から出る前に。
ただそれには、圧倒的に時間と、向上心が足りないのだ。

私は東北の手を握った。

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3月3日 時限爆弾

「なにか、してほしいことは、ある?」

彼女は聞いた。身の振り方を決めるために。優しくてそれでいて冷たい問いだった。そして完膚なきまでに間違いの無い、決定的な他人行儀! 私はまずそこで、最初の選択をしなければならなかったのだ。

静かだった。
そこは静かだった。
とても。

その小さな箱の中は文字通り私と彼女の二人きりで、遠くからは人道的な喧騒が聞こえてくる。

僅かな沈黙の後、ある、という手離した声が響き、また、音が消えた。

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