兎に角、少し眠りたかった。目は既に細くなっていたし、キャパシティ・オーバーした頭は、急速に回転を止めていた。ただ、今眠るわけにはいかなかった。(考えろ。考えろ、何が最善かを。)だからといって。疲労を止められるわけがない。考えるから疲労するのだ。私は思考を止めた。行動は総じて悪い方へ転がるのだ。今までもきっとこれからも。それに今は、そんなことをしている場合でもない。
寂しい、と言ったアートは、白衣がちらつくたびに意識を持っていかれた。寂しいね。私も応える。海先生に会えないものね。アートは少し黙って、ことこと笑った。ああ、そうだよ。蟹先生にも会えないからね。
そして二人で口をつぐんだ。暫くアートは机に伏せて、私は伏せたアートのうなじを見た。兎に角、少し眠りたかった。
「でも」私はふと言った。
「でも、安心しないかい?」
「……厭なことを言うな、この子は」
アートは投げやりに笑った。
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