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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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12月30日 自由遺志

気が付けば、その呼称は定着していた。気が付けば、意図的に変えたことにしていた。   と、呼んで良いんだよ。そう言って私を許したのはKだけで、他の人間はそんなことは許さなかった。
  さん。私は彼女に責められねばならない。
意図的にそうしているのだ、と、私は忘却の河辺を歩きながら言う。私は呼ばないようにしているのだ。
忘却の河を眺めると、過去は一層鮮明に描き出されて、やはりそれは色褪せてなどいないな、と、私は考える。


その時彼女は怒っていて、私ももちろん怒っていた。なんで、“さん”なの。彼女は言った。意図など全て判っている、とでも言うように。
   。****。**。
ただその時彼女は、初めて他人ではなかった。私が常に総てを晒していながら、それでも他人だと思っていた一方で、彼女はそんな場所すら与えない。
もう私の言葉は、彼女の表面にすら届かない。



気まずいのかな、と、彼女の顔をした靄が言った。そういうことになっているのか、と、私は私の後ろから私を見る。そんなことはない、あまりに長く、そう呼びすぎただけなんだろう。そう信じながらも裏腹に、私は彼女を呼ばなかった。
練習しましょう、  サン。
きっと意図など含まれていない。今の私は、河に映った私と大差のない顔をしているのだ。


呼ばないのではなく呼べなくなってしまった。そんなことは知らずに、気が付けば私は、賽の河原で石を積んでいる。






あの時、あの時、私は焦っていて、彼女は確かに微笑んでいた。なんで、“さん”なの。彼女は私に優しく言う。君のことは判っている、と、言葉の底には秘めながらも。私の言葉を聞くために。
私は昔皆のことをそう呼んでいたんです。
それは、誰の言葉だったのか。その答えを石にして、私はまたひとつ、賽の河原に石を積んだ。


満月を繰り返して尚、過去は未だ鮮やかで、忘却の河を眺めながら私は、安心したように笑っていた。

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1月29日 問題転換


「青のこと、誰かに言った……?」
別にどちらでも良いのだけれど、と付け加えると、彼女はうーん、と、例の笑顔で暫く考えるように黙ってから、言った。忘れちゃった。
「昔のこととか、あまりおぼえていないんだ――いつもその場その場でのことしか頭になくて。だからきっと、私の記憶を覗いてみても、とてもつまらないものなんだと思う」
そう、と私は言い、ストローでオレンジジュースをかき混ぜた。からからと軽い音が響く。
(鮭子さんもよくそういうことをするけれど)
ただ鮭子さんは論理の補強のためにそれをするけれど、彼女は。
私はそれを、罪の無い嘘だと思った。

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11月26日 呼ぶ

「――雀。君はいつだったか、私に聞いた」

『なんで、“さん”なの?』

「君は覚えていないかもしれないが、言ったんだ。何の気なしに言ったんだろうけれどね。私はその時気付いたんだ。私が、かつて呼んでいた愛称で、彼女を呼べなくなったことに、気付いたんだ。」

Kは相変わらず私の頭を撫でている。
箱の中は水を打ったように静かだった。

「――最初は恐らく意図的だったんだよ。それがいつのまにか、呼ばない、のではなく、呼べなく、なってしまっていた。多分、いろんなことがあったからなんだろう。疚しいことがあるのは   で、  サンに対して罪は無いと、そういうことなのかも、しれないな――」

成る程、と、雀は納得したような声を出し、黙った。
相変わらず箱は沈黙していて、「外に行こう。声が響くから」と、Kが私に言う。「いいんだ。大丈夫だから。」
恐らくもうそんな時間は、遺されていない。


どうなろうとも、いい、と、ぼんやりと思った。間も無く箱の蓋は開き、他人は人間に還るのだ。

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◇登場人物/空物語


東北:信念
毬:価値観
K:許容
オアシス:冷静
桜:出立
縞馬:思い出
辛さ:決断

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12月30日 11月5 日


「…………その人は、所有物、って表現したよ――」
アートは私を一層強く抱きしめた。強張った身体を抱えきれずに、反れた力をいなすように、腕が震えたのが伝わった。
「……物凄く、的を射てる、と、思った」
アートはやはり黙って何かに耐えていた。

「でも、でも、私は所有物じゃない。所有者は、所有物に対して責任があるけれど、彼女は、私に対して、責任はないもの……」




『わたしはね、人間様に飼われたいんだ』
『……どういうことなの、奈良。』
『首に鎖をかけられて、餌を与えられて、一生ご主人様に飼われて暮らすんだ……』
『……ああ、成る程。――それはとても、』
シアワセなことかもしれないな――




「……いっそのこと、所有して、くれれば、よかったのにね――」
「ああ、しょゆう、されたい、ね……」
淡々とした言葉に暫く沈黙をした後、アートは噛み締めるように言った。

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11月13日 中心


「なんで、彼女なの、?」
「――どうしてだろう。な。優しかったからじゃないだろうか」
船頭は微笑んだ。
「どうして――優しい人は他にもいるじゃない!」

は、と私は顔を上げた。そこまで突き詰めた質問を能動的にされたのは、初めてだった。

「……優しいといっても彼女は、他人行儀に優しいんだ。それは私だから注がれるものではなく、誰にでも与えられるもので。他人行儀な人間は、どんな人間であっても一様に接するだろう、だから、」
「だから好きだったの?」

いつものようにした他人行儀の説明の、確認の言葉に私は頷く事が出来ず、ただ判らない、と繰り返していた。
船頭はもしかしたら、全てを知っているのかもしれない。その敏感さ故に、私のことも彼女のことも、今までのこと全てを。しかし、その強靭な信念故に、決してそれを言わない。誰にも言わずにただ持っているのだ。

私は立ち直ると、窓の外を見た。確かに、それは事の本質を突いていた。

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3月5日 代替


いつだったか**は言った。

「キスしたくなった」

細められた目は紛れもなく私を見ていて、いつものようにからかうような口元がそこにはある。しかし裏腹に、声は微かに震えていた。

やめろ、という理由もなければ、いいよ、と理由もない。ただ、都合が良すぎる、と、思った。
あの時私が気づかなかったのと同じ理由で、自分の予想に自信が持てないのだ――ただ、
「別にいいよ――すればいい」
と言うと、驚いたように静止する気配がし、沈黙が訪れ、私は腹に息をためた。「いいよ、二言はないんだろう……」

しばらく意味のある沈黙が続き、黙って私はその瞬間を待った。**の手が腕に触る。戸惑うように――直ぐに離れていく。

「……あ」
「……びくっ、て。なった。」


嗚呼、強張った身体は、一体何を伝えたのだろう。拒絶だろうか? いや、それは違うのだ、と私は反芻する。
本能的な嫌悪だったのかもしれない。性に対するものではなくて、人間に対する根本的な嫌悪。
わからなかった。ただ、それが彼女であったら私は、おそらくは、
(迷うことなく受け入れたんじゃないのか)


ファンをまわす機械音と喧騒。音のない小さな部屋でまだ二人は黙っていた。
手を伸ばせば触れる距離で、二人はそれを許していたのに、私は**に、指一本触れなかったし、**も同じだった。

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3月10日 失踪

どこか全てに距離を取り浮遊していた。そして、久しぶりに彼女を見たときは、心臓を揺さぶられたような気がした。たまに、ごくたまに、寝入り端に心臓を転がされるように感じるときがある。それに似た生理的な感触。喉の奥には人工樹脂の塊がずんぐりつまっていて、飲み込むことを困難にする。
ただそれだけだ。
何も思わない、と、思う間もない。
黙り込んだ海のような「私」はただぼんやりと箱の中身を見ていた。

「私の、  !」
「ああ、そうだね」
に、と笑うと東北は笑った。心臓もとても愉快そうに笑った。私は私が二重になっているような気がして、痛みを感じない。
その代わりに、今までのように力がない――ただ切れた凧のように、どこか遠く遠くを浮遊してゆく。離れていく。


昨日昨日だと思っていた日が一年前だったのは半年前の話。いつかいつかだと思っていた日がもうすぐなのは今の話。
とうとう私は断ち切って、今ではなく先を見るのだ。

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3月19日 脱力

「すみません海先生。持っていきますから……」
「いや! 別に良いよ、」
意外そうに答えた海先生に、雀と顔を見合わせる。
この箱の規律と暗黙の了解にも慣れたが、未だに首を傾げることがあった。そのうちの一つが掃除をしないことで、
「海が疲れてるよ、」
もう一つが教師に敬語を使わないことだ。
「最後の大掃除だ。卒業すればもうこんなふうに掃除をすることもあるまい。」
「そうだね」
「まあ、それも乙ということだよ」
と、会話をしてそれっきり黙った。
机の足を淡々と拭くもの、友人との談笑に花を咲かせるもの。様々な人間がいる。早く終わりたいのなら口ではなく手を動かせ。と、ワタヌキなら露骨に顔をしかめたかもしれない。しかしワタヌキも、いい加減その暗黙のルールに慣れたのか――私はワタヌキが、内向的になったせいだと思っているけれど――そういうものだと諦めたのか、黙って手を動かしていた。

「それは使わないものですか」
「そう。まとめて持っていくよ」
「ああ――いや、持っていってしまいましょう」
ホウキを受け取って教室を出た。立ち止まるのを、何もしないのを、避けたかった。ぼんやりと終わるのを待つようなことは、したくない。実際的なことしか今の私には意味を持たないのに。
教室からは、ああ、優しいのね、と、彼女の声が聞こえてきたが、違うんだ、と思う気力も、その意味を考える体力も、生まれてこなかった。

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3月23日 幕物語/血の欠片

アートと海先生の話をしよう。

アートは話すことを考えていた。
「色々考えているけれど、まとまらないんだ」
眉をよせてうんうん唸っていたアートに断って、私は法隆先生のところへ出掛けていった。
私が挨拶を終えて帰ってきた時、アートと海先生は椅子に座って話をしていた。アートは泣きながら。私は二人の間に座り、話を聞いた。

その内容は此所で語るべきものではない。

ただその時を思い返すと、私はぼんやりと、アートとは根本的に似ているのかもしれないと考えはじめているのだ。

(アートは私のして欲しいように触れてくれるのだ。許してくれるのだ。
私はアートが言って欲しいことを知っていた。アートが泣いている理由を知っていた。多分、それが勘違いでないのなら、私とアートは似ている。けれど、そんなことを言うのは烏滸がましい。アートのプライドが、許すまい。)
だからその可能性にもっと早く気づいたとして、私はそれでも黙っているしかなかったに違いない。


『こわいよ、こわいよ、ひとが。みんなが、怖いんだ――!』
あの時アートは言った、倒れ込んだ私を支えながら、
『おなじだ。おんなじだあ……!』



一つ、印象深かった言葉がある。
「私は正直、君のことも苦手なんだ。良い人すぎて、苦手なんだ。」
「いいや、私は悪い人間だよ、それもこの間証明されただろう」
私の意見を聞きながら、それでも私を好い人だと言ったアートのほうが十分に好い人だと思っていた。アート以外の人間が言ったのなら、皮肉とさえ思ったかもしれない。だから少なくとも、その面では、私はアートとは似ていないし、これからも取り立てて指摘することもないのだけれど。


海先生は行ってしまった。アートは立ち上がる。
アートはもしかしたら、皆が思っている以上に海先生に思いを傾けていたのかもしれない、と、思いながら、私は空になった教室を見ていた。それはもしかしたら恋などではなく、もっと切実な、繋がりとして。野暮な例を出すのなら、私が彼女に、求めた繋がりのように。

アートは私の頭を一撫でして、去っていった。じゃあ、また。

これが、アートと海先生の最後の話だ。

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