どこまでも私たちは逃避行を続ける。
少女の気がすむまで、どこまでも逃げ続ける。夢の続きになれない私は、いつまでも少女の傍にいるだろう。
少女の一番綺麗な記憶である私は、決して少女を突き放しはしない。それが少女にとって一番残酷なことだと知りながら、それでも好意を振りかざして、何もみせずに全てを受け入れた振りをするのだ。
夢の中で少女が抱きついていた誰かは、段々と私に似てきていた。
「みかなちゃん、だいすき!」
「ありがとう」
少女は、私を信じている。心のそこでは私の存在すら疑い続けているくせに、それを決して口に出さない。
おそらくわかっているのだ。それを口に出すときが逃避行の終わりなのだと。
嘘吐きと偽善者は、どこまでもどこまでも逃げ続ける。
最初に私を連れ去った彼女や、少女が夢の中で抱きついていた誰かの影から逃げ、またそれを求めるように。
最初の逃避行に、私たちは新宿の喫茶店で煙まみれになる。
夢を見た。
少女が誰かの足元に跪いている。
首には真綿をこよった紐が巻きついてる。
少女は動かない。
見かねた私は少女の手を取り引き上げようとした。
それでも少女は動かなかった。
少女は笑っている。
誰かを見ながら笑っている。
私は誰かを見て、そして悟った。
少女が何故笑っているのか理解した。
「誰か」だと思っていたそれは顔の無い蝋人形で、勿論、私も彼女も、そうであったのだ。