心臓は何時ものように意味ありげな笑顔で(それは彼女の人間に対する接し方で、実際は何も無いのだけれど)、言った。
なんということだろう。
「そんなに悪かったの」
「むかし手術をしたところでね、」
「そんな、ほんとうに、」
会話をする余地も無いほどに、つまり四点以内の気合いで臨もうと思っていたが、そういうわけにもいかなさそうだ、などとぼんやり思っていた。
「泣かないで」
眉を下げて動揺した私を世紀が笑って慰めた。
優しい世紀は機微に気付いてばかりで、うっかり昔を思い出しそうになる。
「がんばろう」
「うん」
「ゾーンを、ちゃんとやろう」
「うん」
心臓は私に手を振った。
「エースが試合に出られないなんて、一体どうすればいいの」
土曜日に言ったじゃないか、大丈夫だ、って、言ったじゃないか、エース。私たちのエース。嘘を吐いた、私たちのエース。
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