「彼女は※※かもしれない」
「洒落ににならねえぞ」
私はトレイにひいてあった紙が、ジュースの水滴で灰色になってゆくのを眺めていた。水滴が紙カップから滴り落ち、水玉模様をじわりじわりと作っていく。
「どうするんだよ」
まずいぞ、それは。と奴は顔を歪めて言う。
どうしようもない、他人の考えることなど分からない。ただ、その可能性は零ではないな、と思った。小数点以下に零が百くらいつくような、零に限りなく近いものだけれど。
そんなことさせない、と呟くと、それがあまりにも現実と遊離した考えのように感じられて、私はそれを振り払うように紙を端から少しずつ折っていった。事実、それは現実的ではなかった。
「※※はしない、掠り傷くらいはあるかもしれない。けれど、流石にそんなことあるわけない、と思う」
「しかし、人間何をするか分からねえよ」
低い音を立てて携帯が受信を告げた。テーブルの上に放置されていた携帯のランプは、赤。私はぎくりとして暗証番号を打ち込む。東からだった。溜め息を吐いて携帯を閉じる。
「もしもの時は――その時は――」
かばっておまえが※※。
分かっている、と私は頷いて、トレイの紙をぐしゃぐしゃに丸めた。信じるべきは、自身だ。
それ相応のことをしたのだ、という言葉は私のもので、誰のものでもない。
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