「映画観ただけだよ」
「ほんっとにそれだけ?!」
「う、うん」
「映画ってデートコースじゃんか!」
「すぐ帰ったよ」
「私はその後髪切りに行ったんだけどね」
「切ったって……おまえなんかしたの?」
「手出したんじゃないでしょうね!」
「出してないよ!」
話題の無かった旧友たちの好奇心を煽ったらしい私と数学は、面白そうに囃す彼女らの質問(というか尋問)をのらりくらりと捌いた。
驚きながらも飄々と器用に質問を受け流す数学は、意外なことに意図を全く感じさせず、読めないやつだ、と私は心の中で呟く。
(へらへらしているように見えて、実は何も言っていない。誰も気づいていないけれど)
それにしても何故そんなに驚くのか。
単純な疑問は口をついていたようで、「そりゃあ、 だからだよ」という答えの言葉は耳の前に提示されていた。
私だから。ああ、そうか、旧友達の中にいる私は、恐らく時間が止まっている。私の中で彼女の時間が止まっているのとは別の理屈で。
これが例えばドラムと直線なら、そうなんだ、の一言で十分済まされるところだろう。やっぱり私という人間の印象は昔から――とつくづく思った。
「 を穢さないで!純粋なんだから!」
戯れに直線が言う。
「私はあまり純粋じゃないですよ」
ぽつり、と呟いた言葉は小さすぎて会話の中には入って行かなかったようだった。
「 は警戒心が無さすぎるよ!」
「そうそう」
「 、行くときは言っておいて欲しかったな」
「ごめんなさい」
驚いたでも面白がるでも囃すでもなくて、寂しそうに興業は言ったから、私は思わず謝っていた。
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