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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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11月16日 杭

うるり、と涙を滲ませた毬は黙って重苦しい空気を纏っていた。益々日本人が嫌いになる、と苦々しく呟いた。負けず嫌いで完璧主義者の毬は、相当悔しいに違いない。それは結果にではなくて、他の二つのチームの態度に対してなのだ。私はどんな発言をすべきか一寸迷い、沈黙した。
(エース達がいたから、あの時は楽だったんだ)




「けがとかしなかった?」
「――なんの?」
「さっきの、バスケ」
「ああ、全然大丈夫!」
「皆怒っていて、」
「気にしないほうがいいよ! 皆熱くなる人たちだから」

所詮些細なことなのだ。いつだって気にするのは傷ついた方だった、と、私は心の中で溜め息を吐きながら、彼女に背を向けた。
毬の気持ちを分かる人がもっといればいい、と思った。

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11月19日 ムーミン・トロール

「大丈夫?」
と、狐が目の前で手を動かした。最近はめっきり少なくなっていたけれど、どうやらいつのまにか物思いに耽っていたらしい。(大抵自分ではそれに気付かない。狐に指摘されて、やっと気付く) だいじょうぶ、だいじょうぶ、と早口で繰り返すと、狐は冗談として言った。「君はいつも、大丈夫じゃないときにそう言うよ!」


顔が微かに火照っている。鏡を覗いた私はうっすら赤い頬をしていた。
内向的になったぶん頭ではなく心で考えていて、直接的な感動は言葉ではなく体に現れるのかもしれない。そうだ、言葉も身体も嘘を吐けるけれど、より正直なのはいつだって無意識だった!


冷たい手で頬を冷やす様子は、きっとまるで恋をしているようなのだ、と、私はくすりとわらう。
なに、悲しむこともない。考えることもない。ただ、それだけでいいじゃないか、と、語ったアートを思い出していた。

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11月12日 虚を突く

ありがとう。

病的な被害妄想、むしろ病と言った方が良いそれが、また私の心の藏に噛みついてくるかと思われたが、秒針が一周したころにはさっぱりと消えていたので、私は、それで良かったのだ、と思った。
他人に対するには冷たすぎる反応であったけれど、きっとそれで良かったのだ。

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11月21日 テグス糸

寝ぼけた彼女は私の見えない場所を見ている。その黒目は普段より、三ミリ程左右に離れた場所で留まっていて、今度こそ読めまい。別のことを考えているのかもしれない。何も考えていないかもしれない。何を思っているのか。嗚呼、鹿の目。深奥に光を湛えたそれに気付いた。それは意味を与えない、代わりに決定的な孤独を与える。

柔らかいテグスのような髪はあまりにも無機質だった。


できれば溺愛していたい。
それでも私は彼女がすきだったし、失った以上に沢山のものを貰っていたからだ。

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うそ 11月28日

少し眠い。トラント・セットはそう言って目を瞑った。寝ると良いよ。ノーヴェは馬鹿みたいに言った。酷い嘘つきだ、とトラント・セットは思った。眠れば起きられないことは知っていた。
けれど、トラント・セットは眠ることにした。その時のノーヴェが優しかったのと、トラント・セットはひどく忘れっぽい性格だったのとで、昔はなかったことになっていたからだ。

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11月30日 敏勘 1

船頭は助け船を出した。
「あっちのほうには扉が見えるんだ」
「扉?」
「そう、妄想のね!」



「集中していない  の観察をしていたの!」
苦笑しながら顔を上げた。東北も笑う。屈託なく笑う。来るべき時が来た、しかしそれは嫌味も皮肉も悪意もなかったので私は笑った。
「あっちのほうをちらちらみていたでしょう!」
それは事実だった。しかし私は言った。見ていないよ、と笑いながら言った。焦ってなどいなかった。
何も思わなかったのだ。


「かたおもいをしているの、」「だれにかたおもいをしているの、」「くすくす、」「かわいい、」「かたおもい!」

「していないよ。かたおもいなんて、していないよ」

顔を伏せると船頭は助け船を出した。勘の良い船頭。優しくてそれでいて敏感。故に彼女は、中立を決め込む。だから私は信じている。彼女は彼女に、何もしないと知っているのだ。


エースはじっとしている。鞠は談笑している。彼女は勉強をしている。私は、ただ、わらっていた。

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笑み 11月27日

トラント・セットは泣きながら、帰りたい、と言った。
ノーヴェはそう、マリアさまのように佇んでいて、大丈夫だよ、とほほえんだ。
「もう、僕はここにはいたくない」
トラント・セットはホットミルクの底をじっと見つめて、やっぱり泣きながら言う。
ノーヴェはやっぱりほほえんでいる。でも今度は大丈夫だよ、とは言わずに黙って黒い目を向けた。
「でも、君の居場所はここしかないんだ。ここを出てどこに行くんだい?」
ノーヴェの言葉に、トラント・セットは、ひ、とひきつった声を出して、それから水を溢してしまったようにわんわん泣いた。
それでもノーヴェは、ただほほえんでいるだけだったけれど、トラント・セットはノーヴェが変だとは思わなかった。
「さめちゃうよ。はやくおのみ」
トラント・セットは黙って従うしかなかった。それ以上言葉を続けられずに、白い液体を飲み込んだ。
ノーヴェはかみさまで、トラント・セットはかみさまを否定することは出来なかったからだ。

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11月30日 敏勘 3

「ねえ、扉が見えたの? なんで、あっちを見ていたの!」

心臓は屈託無く笑う。心臓は知っている。それが含意されているのかどうかわからなかったが、私は兎に角言ったのだ。
「だって、こわいんだもの!」


こわいんだもの。
最近話してないから、と心臓は笑顔で言ったので、私は私の勘は正しかったのだ、と思った。

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11月30日 敏勘 2

「さっきはありがとう」
と言うと、船頭は笑った。ほんと、ばかなんだから!
「かわいい、なんて言っちゃうんだもの!」
こわい、って言ったのよ!と訂正すると、やはり船頭は笑顔でいた。

「だれをみていたの?」
「……ああ、あのへんの席の、」
「どっちをみていたの?」
「……前のほう」

船頭は、ほんとに!と楽しそうに笑った。そして、そのままの顔で言う。
「この間の三時間目、貝と話していたでしょう?」
「話していたけれど、」
「見ていたよ、彼女。――  ちゃんを。こう、ノートを見るふりをしてね」

その言葉すら、私を動揺させない。私はマフラーの先に触りながら、心から言った。
「ほんとうに、あなたは勘が良い!」
「ね、偶然気づいちゃったんだよね」
船頭はいたずらっ子のように――ただし、心臓とは違うふうにけらけら笑った。

きっと彼女もこわいのだ。私と彼女は違うけれど。
ただかつての私のように悩まなければ良いと思った。


「私と貝はね、美術の話をしていただけなんだけれどね」

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12月5日 劣勢 2

それがどこから聞こえたのか分からなかった。ほんとうに。
声は確かに彼女のものだった。だから遠くを探した。しかしやはり、ここに入るときに確認したように、席にも輪の中にもいないのだ。ぐるりと辺りをみまわして、そして私は盲点に気付く。顔を、目を、見ることが出来なくて、怖くて、私は視野で隣を見た。違います。心臓が描いたんです。心臓が。――ええ、そうなんです。だから、すごいのは心臓なんです。――うん、でも、私じゃなくて心臓なんです。

Kが心配そうに私の頭を撫でた時、初めて、この想定外の状況で、自分の声が震えていたことに気付いた。
そして彼女が、自分が優位に立っているという自覚を持ったことにも、気付いた。実際それは本当のことだった。


細かい機敏を言語化することは出来なかった。その権利は、私にはなかった。明らかに非があるのはこちらだった。

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