トラント・セットとノーヴェは、公園で遊んでいた。
逆さまにした籠を木の枝で支えておいて、籠の下にはおいしそうにパンくずを巻く。枝には糸が結んであり、先はノーヴェが持っている。
小鳥がパンくずを食べようと籠の下に入ったら、糸を引く。木の枝は外れ、籠を落とす。籠は小鳥を捕まえる。
「小鳥はばかだね。こんな簡単な罠に気づかないんだもの」
ノーヴェは小声で言った。今日で五匹目の小鳥が、籠の中に入ろうとしているところだった。あくまで無邪気にしているノーヴェを見ながら、トラント・セットは、ぎゅ、と眉を寄せた。
「ばかなもんか――小鳥にだって知恵はある」
不愉快そうにしているトラント・セットには気付かずに、ノーヴェは、やった!と声を上げた。「五匹目だ!」
ノーヴェは籠を僅かに開けると、きょとんとしている小鳥に頬を寄せて何事か呟き、そして直ぐにそれを逃がした。小鳥は躊躇うようにノーヴェの回りを二周した後、遠くへ飛んでいく。
「ねえ、捕まえるでもなしに。何が楽しいの?」
「『捕まえる』ってことがね!」
あっけらかんとしたノーヴェに、トラント・セットは、不愉快だな、と心の中で言った。それから顔を背けて、それきり二人は喋らなくなった。ノーヴェは小鳥を捕まえるのに夢中だったし、トラント・セットは怒っていたのだ。
長針が一周した位で、ノーヴェが、あ、と声をあげた。トラント・セットは振り返った。怒ってはいたけれど、ノーヴェの声には応えなければならなかったのだ。
困ったような表情を浮かべて、ノーヴェは、どうしよう、と言う。
「どうしよう、この鳥、飛ばないんだ」
トラント・セットは籠のそばに行って、小鳥を見た。小鳥は、籠から半分頭を出して、ぴくりともしない。トラント・セットが指の先で頭を撫でても、微動だにしなかった。
可愛そうな小鳥。運悪く籠に首を挟んで、死んでしまったのだ。
しんでしまったんだよ、と言ったところでノーヴェにはその重大さが理解できまい。トラント・セットは、眠っているんだよ、と言って静かに小鳥を手のひらに乗せた。
その拍子に小鳥の口から何かがぽろりとこぼれた。摘み上げてみると、どうやらパンくずのようで、トラント・セットは、もしかしたら小鳥は、それが罠だと分かっていたのかもしれない、と思った。それでも、空腹を癒すために、罠に飛び込まざるをえなかった小鳥が可哀想で、トラント・セットは静かに泣いた。
ノーヴェはあいかわず糸の端を持っている。やめなよ、もう。そう言うべきなのは分かっていたけれど、トラント・セットは何も言えなかった。トラント・セットはもうすでに、首を挟んでしんでいたからだ。
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