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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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10月27日 貸借

ラベルに書かれた字を見ていると、なんとも言えない気持ちになった。
「これは、彼女の字なの?」
「そうだよ、多分――やっぱり、東に似ている」
幸せ、とは少し違った。ラベルが元からあったものか、それとも私に貸すために書いたものなのか分からなかったが、桃色の香りを吸った時の機微にも少し似ている気がした。
「なんだろうなあ、うまく言えないのだけれど――オアシス」
「なに」
「私はね、知っていたんだよ。彼女がこちらに来るって知っていたんだ」


最近おかしな彼女であるが、今日のそれには理由があった。正確に言えば、私に理由が看過できた。
自席に座る私に対して、話し掛けるには足りない心持ちの何かを――随分と長い間持っていたようで、それが緩やかに伝わった。彼女だから、若しくは私だから、気持ちを向けられることには敏感だった。
彼女が何をしたいのか私は知っていた。だから平たいそれを鞄から出すのを見たとき、直ぐに私のところに来るのだと分かって、私はべたりと机に伏せたのだ。


「ああ、それで。そういうことだったの」
「そうなんだよ」


「――ちゃん、これ」。私は眉を下げて、ありがとう、と受け取り、オアシスと桜にぱ、と見せた。「借りた!」。彼女は留まるか否かで一瞬、本当に一瞬、躊躇う素振りを見せた後、去った。私がそれ以上会話をするつもりがないと取ったのだろう。それは珍しく正解だった。

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10月28日 六分の五年の内視鏡

ぐらぐらする。体が熱い。熱い。
エレベーターに酔いそうになりながら、私は教室に戻る廊下を歩いていた。真っ直ぐに伸びる廊下。突き当たりにはキャラメルの箱くらいの大きさの、級友たちが密集している。
(こんなヴィジョン、前にもあった)
歩いても歩いても間に合わないような気がして、私は小走りになる。またぐらりと視界が歪む。歪んだ先に見たのは彼女の後ろ姿で、手を伸ばしても届かないのが分かっていたから、私は立ち止まった。人が、いる。人が、密集している。密集――いや、人、が――!
突然過去が、どうしようもない過去が、私の背中を襲ってきて、胃の内容物が押し出され喉を焼いたあの感覚がリアルに思い出されていた。やめてくれ。やめてくれ。それは、苦しい。苦しい。苦しすぎる――!
キン、カン、とベルが鳴る。私はリアルな嘔吐感を押さえながら、あの時と同じようにドアを開けた。あの時とは違って、振り返らなかった。


(嗚呼、どうしよう、厭なことを、おもいだしてしまった)

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10月29日 無意味の意味

ふ、と、視線が視界に包みこまれて、溶けた。言葉も摩擦もなにも存在しなくて、ただ、空間が何か形の無いものに充たされていた。

上の空の私を、意味があるというにはあまりにも漠然とした二つの眼で、彼女は見ていた。一方私はというと、日課のように、恐怖というにはあまりにも甘い右目で、彼女を見ていた。視界は暫く、形の無い何かでこの場を充たすかのように留まっていた。それは黄色と起こるそれよりも緊迫はしていなかったし、良心と起こるそれよりも笑顔を必要としなかった。ただ、その場にあった。


その行為はここ最近に限り珍しいことではなかった。取り沙汰すべきことでもなかった。だから動揺するでもなしに、美術館の絵画から視線を外すときのように、無感動に視線を廊下に流す。何かあるのだろうが、あちらが動かない限り私は動けまい。動くまい。それに用件は察しがついているのだ。


嗚呼、滑る。
何度も何度も。
それでも事実以上の何かを感じることが出来ずに、私は感受性、の意味をぼんやりと考えていた。


『大丈夫?昨日はどうしたの?』と、彼女はそう、まるで聖母であるかのように、言おうとしただけなのだ。おそらくは。

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11月2日 優しい声

籠からボールを出しては、手当たり次第に放っていた。例えば。ありがとう、と世紀。どうも、と星。どもっす、とエース。あざーす、と永遠。さんきゅう、と野良。そして。ありがとう、と、彼女。

それは丁寧に紡がれていて、優しい響きを持っていて、生苦しさが、気管の辺りにはりついた。

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11月4日 視線の裏の真意を、

二秒。
それは私にとっては無意味なほど短い。

(そんなことがあるだろうか、)


糾弾の取っ掛かりをまた作ってしまった。晒される。暴かれる。形はないが確かにあるもの、言葉にしてしまえば一瞬で輝きが失われるもの。このかんじを誰かに話せば消えてしまう。愛すべき無言語の領域が。



「例えば用事がある時、私は君がどこにいるか探すよ」
「うん」
「でも、用事は無いんだ。少なくとも、その時はないんだ。何の意味もなく君がどこにいるか探すんだよ。どういうときに、そうするのだろうか」
「意味もなく見て、何も言わずに視線を逸らすということ?」
「そう。例えば好きなのかもしれない、例えば嫌いなのかもしれない。」
「嫌いなひとの顔は見ないな――恋でもしているのかい?」
「いや全く」


(私を見たな。私を探したな。用事は一体なんなんだ。)


白と黒の重りの乗った天秤は、いつまで経っても釣り合わないままだ。

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11月2日 あなたは今楽しいですか

永遠の咄嗟の機転を果たすべく、私はエースの隣に立っていた。

エースは単なる冗談の憎まれ口を叩いていた。それはコートの笑いを誘った。
「こっちくるよ――いや、あっち!取って取って――それ、そこだ!――よし、やったあ!」
「世紀――うるさい!」
コートの笑いに包まれながら、私はただ一人、緊張していた。

エースは私に、世紀の憎まれ口を叩く。笑いながら、ひたすらに。「あいつ――うるさい!」。何度も何度も。私は何も言わずに苦笑した。サーブは入らない。ボールを誰も追いかけない。エースが本当は笑っていないことも、エースがそんなことを言う理由も、少なくとも私は分かっていた。
(分かりやすいんだ――世紀の言うように、きっと今も苛苛しているに違いない。気づいていないのだろうか、皆は)
顔をしかめないように、雰囲気を崩さないように、憎まれ口を叩きたいのは、本当は世紀に対してではないのだろう。
(やる気がない、のとは違うな。赤が言っていた、根本的ななんとやら、か。)
エースはとうとうそっぽを向いて、飛んできたサーブにも気付かない。「エース、くる」。あなたがとらなければ、きっとつづかないんです。エース。エースは二分の一より後ろに落ちそうなボールを拾った。高く高く上がったボールは鈍い音を立てて誰かの腕に当たり、そのまま体育館の床に、落ちる。



試合が終わりコートを出ようとすると、ありがとう、とエースが声をかけた。暗に言いたいことを感じとり、エースはきっと、誰かに対して怒っているのでは無いのだ、と思った。頑張って、と言うのも烏滸がましい気がして、口角をできる限り上げて二度頷くと、私は自分のチームの元に走る。永遠が同じ思いをしないように、せめて出来る限りのことをしようと、そう思った。

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11月9日 無人塔 1

いないね、とオアシスが言った。ああそうだね、と呟き、マネージャーじゃないんだから、と付け足すと、オアシスは笑った。
「別にいなくたって関係ないわ。別に寂しくなんて無いわ。休んだって。私には全然関係ないもの」
ふい、とそっぽを向いた拍子に目に入った彼女の机がからっぽであることに気づくと、ぽっかりと心に穴が空いた、とてもしまりのない気分になる。良い意味でも悪い意味でも、彼女の存在はまだ影響力を持っているのだ。

(それが良い意味ではないと思っていたのだけれど)

彼女が今日は箱の中に居ないという事実を知った時の私の第一声ときたら。「嗚呼、今日はとてもつまらない日だわ!」。望む言葉を発し、そして続ける。「今日は気が楽ね」

気づくと、でもさびしい、と呟いていて、オアシスは呆れたように言った。
「結局つんつんしきれていないのよね……でれでれじゃないの」

私は、うー、と喉を鳴らして、机にべちゃりと伏せた。

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11月6日 餌のない釣り針

怖くて怖くて仕方がない。

会話が終わり、静かに息を吐き出した自分を見て、相当神経が張っていたのだ、と思った。不信感があればあるほど饒舌になる。常に言葉を捻り出そうとしていて、意味の無い言葉を羅列する。今に関しては特に、糾弾される取っ掛かりを作らないように、煙を立たせないように、言葉を選んでいた。しかし、それでも、それすらも、「――」「――」無意味だったのなら、私は一体どうすれば良いのだろう。


「ああ、日本史が、おぼえられないなァ」
「あァ全くだ!」

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11月14日 今 1

無性に悔しくて仕方がなくて、それが怒りに変わる前に、私はなんとか涙に落とした。眠たそうな振りをして、綺麗な水で、汚れを流した。


(『悔しいね』)
(『ちがうの。仕方がないの。でも。』)


アート。真っ直ぐな人。声を上げて泣いた私の背中に触れてくれた。それだけで十分だというのに、そんな人が傍に居てくれるだけで十分だというのに。何故私は、他のものを求めていたのだろうか。

しかし今日はアートはいなかったから、一人で硬直した身体を出来る限り固めようと努力した。立ち去れない。能動的に、かつスマートに動かなくてはならない事実が、余計に私を落ち着かなくさせていた。そわそわと身体を動かして、無意味に笑顔で人に干渉すると、皆、愉快そうに笑った。「良いことでもあったの?」


(『誰かと話すために、私の話を、使ったたことが、怖いの。』)


機嫌が良い、のではなくて緊張が過ぎてそうなっていたのだが、私を含めてそれに気付いた人はいなかった。今も昔もそうだった。

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11月14日 今 2

最初の一回の切っ掛けなど、単なる気紛れに過ぎないのだろう。結果としてそうなっただけで、深い意味もなければ、追い詰められていたわけでもなかった。が。私は。なんの意味もなくそうした。彼女は笑った。どうしたの、と問い、私は答えた。なんでもないの、なんでもないの。彼女は優しく背中を撫でた。


しかし今私は知っていた。笑顔の裏の真意を。



それでも相対している間は、例の病的な被害妄想も不信感も何もなく、過去も未来もなかったので、私は負ではない別の感動に充たされ、少なくとも不幸せではなかった。


この瞬間が永遠に続けば良い、と思った。惨めな過去も、惨めになるであろう未来もない、隔絶された「今」だけが永遠に続けば。
そんな願いなど無意味だったが、私はそう願った。

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