永遠の咄嗟の機転を果たすべく、私はエースの隣に立っていた。
エースは単なる冗談の憎まれ口を叩いていた。それはコートの笑いを誘った。
「こっちくるよ――いや、あっち!取って取って――それ、そこだ!――よし、やったあ!」
「世紀――うるさい!」
コートの笑いに包まれながら、私はただ一人、緊張していた。
エースは私に、世紀の憎まれ口を叩く。笑いながら、ひたすらに。「あいつ――うるさい!」。何度も何度も。私は何も言わずに苦笑した。サーブは入らない。ボールを誰も追いかけない。エースが本当は笑っていないことも、エースがそんなことを言う理由も、少なくとも私は分かっていた。
(分かりやすいんだ――世紀の言うように、きっと今も苛苛しているに違いない。気づいていないのだろうか、皆は)
顔をしかめないように、雰囲気を崩さないように、憎まれ口を叩きたいのは、本当は世紀に対してではないのだろう。
(やる気がない、のとは違うな。赤が言っていた、根本的ななんとやら、か。)
エースはとうとうそっぽを向いて、飛んできたサーブにも気付かない。「エース、くる」。あなたがとらなければ、きっとつづかないんです。エース。エースは二分の一より後ろに落ちそうなボールを拾った。高く高く上がったボールは鈍い音を立てて誰かの腕に当たり、そのまま体育館の床に、落ちる。
試合が終わりコートを出ようとすると、ありがとう、とエースが声をかけた。暗に言いたいことを感じとり、エースはきっと、誰かに対して怒っているのでは無いのだ、と思った。頑張って、と言うのも烏滸がましい気がして、口角をできる限り上げて二度頷くと、私は自分のチームの元に走る。永遠が同じ思いをしないように、せめて出来る限りのことをしようと、そう思った。