ラベルに書かれた字を見ていると、なんとも言えない気持ちになった。
「これは、彼女の字なの?」
「そうだよ、多分――やっぱり、東に似ている」
幸せ、とは少し違った。ラベルが元からあったものか、それとも私に貸すために書いたものなのか分からなかったが、桃色の香りを吸った時の機微にも少し似ている気がした。
「なんだろうなあ、うまく言えないのだけれど――オアシス」
「なに」
「私はね、知っていたんだよ。彼女がこちらに来るって知っていたんだ」
最近おかしな彼女であるが、今日のそれには理由があった。正確に言えば、私に理由が看過できた。
自席に座る私に対して、話し掛けるには足りない心持ちの何かを――随分と長い間持っていたようで、それが緩やかに伝わった。彼女だから、若しくは私だから、気持ちを向けられることには敏感だった。
彼女が何をしたいのか私は知っていた。だから平たいそれを鞄から出すのを見たとき、直ぐに私のところに来るのだと分かって、私はべたりと机に伏せたのだ。
「ああ、それで。そういうことだったの」
「そうなんだよ」
「――ちゃん、これ」。私は眉を下げて、ありがとう、と受け取り、オアシスと桜にぱ、と見せた。「借りた!」。彼女は留まるか否かで一瞬、本当に一瞬、躊躇う素振りを見せた後、去った。私がそれ以上会話をするつもりがないと取ったのだろう。それは珍しく正解だった。
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