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それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

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11月30日 敏勘 3

「ねえ、扉が見えたの? なんで、あっちを見ていたの!」

心臓は屈託無く笑う。心臓は知っている。それが含意されているのかどうかわからなかったが、私は兎に角言ったのだ。
「だって、こわいんだもの!」


こわいんだもの。
最近話してないから、と心臓は笑顔で言ったので、私は私の勘は正しかったのだ、と思った。

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11月30日 敏勘 2

「さっきはありがとう」
と言うと、船頭は笑った。ほんと、ばかなんだから!
「かわいい、なんて言っちゃうんだもの!」
こわい、って言ったのよ!と訂正すると、やはり船頭は笑顔でいた。

「だれをみていたの?」
「……ああ、あのへんの席の、」
「どっちをみていたの?」
「……前のほう」

船頭は、ほんとに!と楽しそうに笑った。そして、そのままの顔で言う。
「この間の三時間目、貝と話していたでしょう?」
「話していたけれど、」
「見ていたよ、彼女。――  ちゃんを。こう、ノートを見るふりをしてね」

その言葉すら、私を動揺させない。私はマフラーの先に触りながら、心から言った。
「ほんとうに、あなたは勘が良い!」
「ね、偶然気づいちゃったんだよね」
船頭はいたずらっ子のように――ただし、心臓とは違うふうにけらけら笑った。

きっと彼女もこわいのだ。私と彼女は違うけれど。
ただかつての私のように悩まなければ良いと思った。


「私と貝はね、美術の話をしていただけなんだけれどね」

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12月5日 劣勢 2

それがどこから聞こえたのか分からなかった。ほんとうに。
声は確かに彼女のものだった。だから遠くを探した。しかしやはり、ここに入るときに確認したように、席にも輪の中にもいないのだ。ぐるりと辺りをみまわして、そして私は盲点に気付く。顔を、目を、見ることが出来なくて、怖くて、私は視野で隣を見た。違います。心臓が描いたんです。心臓が。――ええ、そうなんです。だから、すごいのは心臓なんです。――うん、でも、私じゃなくて心臓なんです。

Kが心配そうに私の頭を撫でた時、初めて、この想定外の状況で、自分の声が震えていたことに気付いた。
そして彼女が、自分が優位に立っているという自覚を持ったことにも、気付いた。実際それは本当のことだった。


細かい機敏を言語化することは出来なかった。その権利は、私にはなかった。明らかに非があるのはこちらだった。

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無邪気 12 月6日

トラント・セットとノーヴェは、公園で遊んでいた。
逆さまにした籠を木の枝で支えておいて、籠の下にはおいしそうにパンくずを巻く。枝には糸が結んであり、先はノーヴェが持っている。
小鳥がパンくずを食べようと籠の下に入ったら、糸を引く。木の枝は外れ、籠を落とす。籠は小鳥を捕まえる。

「小鳥はばかだね。こんな簡単な罠に気づかないんだもの」
ノーヴェは小声で言った。今日で五匹目の小鳥が、籠の中に入ろうとしているところだった。あくまで無邪気にしているノーヴェを見ながら、トラント・セットは、ぎゅ、と眉を寄せた。
「ばかなもんか――小鳥にだって知恵はある」
不愉快そうにしているトラント・セットには気付かずに、ノーヴェは、やった!と声を上げた。「五匹目だ!」

ノーヴェは籠を僅かに開けると、きょとんとしている小鳥に頬を寄せて何事か呟き、そして直ぐにそれを逃がした。小鳥は躊躇うようにノーヴェの回りを二周した後、遠くへ飛んでいく。

「ねえ、捕まえるでもなしに。何が楽しいの?」
「『捕まえる』ってことがね!」
あっけらかんとしたノーヴェに、トラント・セットは、不愉快だな、と心の中で言った。それから顔を背けて、それきり二人は喋らなくなった。ノーヴェは小鳥を捕まえるのに夢中だったし、トラント・セットは怒っていたのだ。


長針が一周した位で、ノーヴェが、あ、と声をあげた。トラント・セットは振り返った。怒ってはいたけれど、ノーヴェの声には応えなければならなかったのだ。
困ったような表情を浮かべて、ノーヴェは、どうしよう、と言う。
「どうしよう、この鳥、飛ばないんだ」
トラント・セットは籠のそばに行って、小鳥を見た。小鳥は、籠から半分頭を出して、ぴくりともしない。トラント・セットが指の先で頭を撫でても、微動だにしなかった。
可愛そうな小鳥。運悪く籠に首を挟んで、死んでしまったのだ。


しんでしまったんだよ、と言ったところでノーヴェにはその重大さが理解できまい。トラント・セットは、眠っているんだよ、と言って静かに小鳥を手のひらに乗せた。
その拍子に小鳥の口から何かがぽろりとこぼれた。摘み上げてみると、どうやらパンくずのようで、トラント・セットは、もしかしたら小鳥は、それが罠だと分かっていたのかもしれない、と思った。それでも、空腹を癒すために、罠に飛び込まざるをえなかった小鳥が可哀想で、トラント・セットは静かに泣いた。

ノーヴェはあいかわず糸の端を持っている。やめなよ、もう。そう言うべきなのは分かっていたけれど、トラント・セットは何も言えなかった。トラント・セットはもうすでに、首を挟んでしんでいたからだ。

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12月5日 劣勢 1

意図的に考えないようにした。駄目だ、いけない、こんなところで動揺しているようでは、いけないのに。

(寒い)

コートを被ると、いくらか圧力が減る気がした。それでもまだ足りない。寒い。寒い。さむいんだ。
顔が赤のは照れたからでも暑いからでもなくて、
はずかしいからだと、今の私はきっと、分かっているに違いない。

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12月7日 現金な神と借金な人間たち 2

 ちゃん、すき!
ありがとう、東北。私も、すきよ。
口口上に心臓も加わり、甘ったるい言葉と突き放した現実で場は満たされていた。さらに船頭が加わる。さらに花が咲く。それでも私はただ自然体でいればいいのは、なんと喜ばしいことだろう!東北は私の扱いを心得ていた。
楽しそうに喋る心臓、笑いながら菓子を差し出す東北、すかさず口を挟む船頭。小さな小さな、微、閉鎖空間の隙間から、わかっている、というように微笑みながら此方を見つめる彼女が見えた。心臓達はそれに気づかない。気づいたところで優しい二人は何もしなかっただろうけれど。勿論私も、何もしなかった。

皮肉なことばかりだ。この世は皮肉で満ちている。

こちらにむかった梨に対して私はどうすることも出来ずに、ただ泣きそうに微笑んだ。少しでも、このひねくれた指針が軌道を修正すれば良いと思ったが、今更そうなるようにはおもえなかった。


(どこで違ってしまったのだろう。何を間違ってしまったのだろう。気がつけば。掴んだものはどれも、私にとっては生硬に着色されたオリジナルで、)


それは紛れもなく真作であったから、私は皮肉だ、と言わざるをえなかった。

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12月8日

同情するなら、忘れてくれ。憐憫の目を向けられたことを、私は忘れられない。哀れまれて下に置かれた惨めさを、屈辱を、未だに払拭できない。白ければ白いほど、一点の染みは、酷く目立つ。屈辱は自尊心故だと、そう思えているうちはまだよかったのだけれど。

今でも、涙が滲むんです。此れからも、辛くて仕方がないんです。こんなに惨めな自分と共に、哀れまれるほど弱い自分と共に、死ぬまで生きなければならないことが。

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12月4日 ペルソナと鈍感

彼女の視線に敏感なわりに、自分の視線には鈍感だったのだ。自分の目が、口が、眉が、今どんな形をしているのかなど、考えたこともなかった。興味がなかった。ただ、結果として笑っていた。昔は。今はどうだろう。少なくとも、怯えている。怯えさせる。試しに眉をしかめて、鏡を覗いた。少女が一人立っている。悲しいのか怒っているのか、判別がつかない顔をしていた。
今まで、顔にでる事実を隠せたことがあっただろうか。それに気づくのは、いつだってそれが済んだ後だったのに。


ごめんなさい、本当になんの意味もないんです。
その言葉は彼女にはもう届かないから、私は、目を自分のあたまに向けるしかなかった。

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12月7日 現金な神と借金な人間たち 1

まず最初に、その声が誰に対してむけられたものか考えた。ここには二人しかいなかったから、私かもしれないと思った。次に、言葉の意味を考えた。何を言わんとしているのか分からなかったから、彼女の目を見た。それには意味を込めたけれど、おそらくそれは言葉の意味を問うものではなく、最初の疑問を込めていたのだ――とにかく、じっと目を見ていた、お互いに。今日も先に耐えられなくなくなったのは私だった。私が視線を逸らすのと彼女が言葉を繰り返すのはほぼ同時で。
「コンタクトだ」
「……、」
「ほら、最近していなかったでしょう」
「……ああ」
感想を、よく人を観察しているのだ、という程度に押さえつけて、私はぺらぺらと言葉を紡ぐ。彼女も珍しく饒舌に話す。このように無意味な会話など、未だかつてあっただろうか。

椅子に座りながら微動だにせず、表情を殆ど動かさずにいる(少なくとも私はそう思った)彼女は、私を落ち着かなくさせた。似ていたのだ。あの時彼女が、心臓に話していた様子と。重石を押し付けられたような心持ちがした。


私のことはあまり気にしないでね。様々な想定を含意したその答えが、中々打ち込まれなかったので私は顔を見た。なるほど、考えている。その目は寝起きのそれと同じで、今と重なった平行世界を見ていた。

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12月10日 記憶喪失 1

電車が低い振動と共に止まり、人を吐き出し始めた。ヘッドフォンを片手で外すと、鞄の持ち手に引っ掛ける。メトロポリタンの巨大要塞は人を吸い込んでいき、一方箱の中は宴の後のように閑散とした。
何時もと同じように目を相対させていて、何時もとは違うことをする。ただ、彼女は表情を変えなかった。それは予想内のことなのだと、暗に示すように。

確かに、確かに互いに意識を向け合っていたのだと、ぼんやり私は確信する。無意味なものではなかった。だからどうした。どこからかワタヌキの声がする。


ねえ、これは停まる?――多分停まるよ。私は乱暴に彼女の隣に腰を下ろした。そして沈黙が流れる。
さあ、どうしよう。私は静かに考える。

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