黙って掲示板を眺めるクラスメートに菓子箱を差し出すと、「ありがとうございまーす!」と、わざとらしい感謝の言葉が返ってきた。わざとらしい、といえば嫌に感じるけれど、彼女はいつもそうなのであまり気にしなかった。『演技臭いことなどいつものことだ』。
あの旧友に言わせれば彼女は「偽者」であるし、同部活の人間に言わせれば「偽善者」だそうだ。がしかし、私はそうは思わない。ただの善を偽ってすらいない只の悪人のような、つまりこれが彼女の素だということだ。
(だとしたら、わざとらしい、という表現は聊か見当違いである気もするが、それ以外にしっくりくる表現を私は思いつけなかった)
クラスメートは、その場で菓子を口に放り込んで咀嚼した。沈黙が訪れた。
そもそも私が黙って差し出したのは、口の中に同じ菓子が入っているからで、だから勿論私も声を出せない。
空になった菓子箱を右手の先で摘んで、左手で彼女の頭を撫でた。特にいつもと変わらない。
つまらなかったので頬に手をあてると、むぐむぐと菓子が砕かれている感触がした。彼女は何も言わなかった。
広げられたノートは、只単純に勉強したかったのか、それとも無意味な沈黙からの脱却か、判別がつかなかったがどちらでも大差はない。
ふ、と視界の端を掠めた気がして顔を上げると、旧友がこちらを見て笑っていた。傍には何の因果か「本物」の二人が座っていて、怪しまれたら敵わない、と曖昧に笑って目を背けた。
今日は動いたから抱きつかせて貰えない。駄駄をこねても、「ね、」とあやされてしまう。
髪を梳こうと思ったが、短すぎて出来なかった。
肩を叩いてその場を去ると、友人が私をみて微笑んだ。その真意を深読みして、私はまた曖昧に笑った。
旧友が指で作ったハートが瞼の裏をちらついた。