「私はね」
「うん」
「四点」
指を何故か三本立てた。
「一試合に」
「うん」
「目標にしようと思うんだよ」
「凄い。頑張ってね!」
笑っていた。特に何の感動もなく、久し振りだ、と思った。(それが他人行儀だろうとなんだろうと、最早どうでもよかった)
「それで、」
「うん?」
「もし、」
「うん」
「もし、目標が達成できたら、噛みつかせてよ!」
彼女は、かつての彼女では無かった。私の発言に全く動揺せず、愉快そうに笑んでいたのだ。「いやだよ!」「なんで、なんで!」
勿論私もかつての私ではない。私と彼女の関係は、当然だが急カーブを曲がるように変化していた。私は余裕な顔をして、その癖必死でハンドルを掴んでいたのだ。ハンドルを切ったのは私だし、その道を選んだのも私だと忘れているのだ。彼女はいつものんびり歩いている。
「モチベーションの問題なんだ」
「そうなの?」
「そうなの――なんで、私だから駄目なの?」
「そういうわけでもないよ」
「よかった」
「ええ」
「なんで駄目なの」
「犬じゃあるまいし」
「犬だと思ってよ」
「むりだよ」
私はね、いつだって君に従順な犬でいたかったのだけど。
(早くこの場を離れたい。べつたりしていると思われないように。彼女に余裕を感じさせないように。)
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