久しぶりに頭を撫でた。
久しぶりに悪い思い出がゆらゆらと現れて、黒いものに侵食されつつあった三時限目。無性に人肌恋しくなって、都合よく彼女は一人だった。
無言で手を置く。
彼女は私の存在をちらりと認識すると、口角を上げて再び机のほうに向き直った。
(そういえば昨日も同じことをしたわけだから、恐らく慣れたのだ。)
ごしごしと撫でると、癖の入った短い毛が、指の間に絡みつく。清潔で筋のある髪。しばらくその感覚を楽しんで、ぼう、と手のひらを頭に乗せた。
「重いよ」
頭を沈める仕草をして――少し笑って言う。
「う」
多分私は情けのない顔をしている。目が合うと、少し困ったような影がよぎる。(それは恐らく人を気にし過ぎるほど気にする私だから、若しくは彼女だから、気にかけた、気にするまでもない一瞬だったけれど)
「そんなかおしないで」
「かお」
「わらって」
彼女が呼吸で笑ったのが伝わった。
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