後で後悔するよ、行きなよ、と、何も知らない狐は私に言った。好意から来るそれは、単に過去と今を繋ぎ合わせただけのことだった。「ほら、そこにいるよ!」
歪な顔で彼女に近づいた。
考えていた文句も台詞も全部忘れて、わざとらしく面白そうな声をだして、――さん、と名前を呼んだ。
考える時間が欲しかった。唐突に行われることに、私は滅法弱い。「それと、あと、紫をちょうだい!」。彼女が手に持っている桃色を指さしながら言う。ひどく苦しい。彼女の反応も自分の行動も。無性に泣きたかった。口が言葉を発していたが、もう、自分が何を言っているのかも分からなかった。
こんなことが昔もあった。その時も後悔した。それで何度も涙を流した。
雰囲気に流される、意志薄弱な私が悪い。ワタヌキはそう言う意味で、言葉を使ったのだ。
あまり考えすぎない方が良いよ、と、気の毒そうに言った。
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