恐ろしくスムーズに体がついてきていた。スピードが足に乗る。床を、蹴る。蹴る。走る。走る。走る。身体がしなる。加速。加速。嗚呼、楽しい!練習の賜物だ。これだから陸上競技は止められない。もっと、速く。速く!
(ひとり め !)
コーナーの前に躍り出る。(つぎ!)
ぐるりと曲がる。曲がる。前方に二人。そしてその先には――
私はくしゃりと頭を振る。そして皮肉にも、こびりついた十八年と安堵が、私の足を緩慢にした。
ず、と手を滑る紫色。時が止まる。
(ああ、しまった)
が、最悪のヴィジョンは現実にならず、彼女の指が、つかむ。掴む。掴んだ。
(走れ!)
ふらりと減速しながら、私は思う。走れ。走れ。誰よりも速く。抜かしてしまえ、みんなみんな――!
「――サン!」
願うように叫んだ。
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