頑張ってね、と彼女が声を発した。わたしにいっているの、――さん。――ちゃん、次でしょ、競技。チョコレートが喉に貼りつく。べたり。彼女が笑う。にこり。何かを言いたくて顔を向けると、彼女の横顔とかち合った。目を細めて口を開く私はひどく焦っている。くらりと目の前が歪む。
「――さんも――」
(「がんばってください」)
くらり。
被せて梨の声がする。「アップ、しよう」「――ああ、しよう」。弾けるように立ち上がる。景色が時間を持ちはじめる。(行こう、狐。)優先したのは義務と自負と正義感で、視界の端に背中を見ていた。
からり。茶色の小箱が膝から落ち、それを拾わず私は去った。
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