またわらわれる。わらわれるわ。黄色は、大丈夫だよ。と言う。
「お、そろそろ帰りそうだ」
「――ああ、本当だ――じゃあ、私も帰ることにするよ」
軽く手を上げて背をむけると、がんばれよ、というように黄色は拳を作った。自分が何をしたいのかも分からなかったが、ただ、何かのためにのんびり歩く気にもなれず、いつものように、かつてヤマトが速すぎる、と言ったように、足を動かしていた。
「おかしい――おかしいよなあ」
彼女は変だ。先週から、何かが。
「どうしたんだろう。何のために残っているんだ?」
彼女は遅くまで残る人ではないよなあ、と、黄色は言った。不審だ。なんだ。またわらおうって言うのか。などと、相変わらず恐怖が勝り、嫌な想像がふつふつと浮かぶ。その正否がどうであれ、なにかをするわけでもしないわけでもないのだが。焦点を定めずにそちらのほうを眺めていると、星と目があった。
(星。あなたは、)
彼女は黒い鞄を手に持ち、談笑をしている。
湿った人混みにのらりくらりと乗っかっていると、すでに駅に着いていた。傘を閉じて雨水を払う。払った水滴が予想以上に飛び散ってしまい、眉を下げながら、僅かに後ろに視線を流すと、黒い鞄が見え、私の身体は凍りついた。
(『ねえ、いっしょに帰りましょう。帰るひとがいないのなら、私といっしょに帰りましょう。待っていた人においていかれたのなら、私といっしょに。』)
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