「誰か待ってるの?」
「ううん、ちがうよ」
後ろ髪を引かれるように首を捻りながら私は言った。船頭はいつものように屈託なく笑う。旧友達に特有のあの笑い方だったが、そう感じさせないだけの説得力が船頭にはあった。
反対側のホームに目をやると、同じ制服が階段を降りていて、目を細めて私は言った。
「あれは、彼女じゃないかな」
「ああ、本当だ。おおい――流石に、気付かないな」
予想に反して船頭は大きな声を出さなかった。思慮深いし、良識があるのだ。心臓のお墨付きでもある。
彼女は当然だがこちらには目もくれず、死角に入り込んだ。勿論私は彼女がこちらに気付かないと確信していたし、彼女もこちらを見る気などなかったはずだった。
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