10月25日 そして私は、盲信している振り をする
「……の」
「え?」
「熊は知っているんだよね」
「ええ」
「直線も……?」
「知りませんけれど、ドラムが言っているんじゃないんでしょうか」
「……熊はきっと……」
「え?」
「……いやなんでもない。ごめん最近病んでいて」
辺りは暗かった。
こんなとき、たとえば彼女ならなんというのだろう。私は思う。おそらく何も言わない。一番美しい他人行儀な言葉で、一番波風の立たない一般論を言うのだろう。然しそれは海先生のような大人の対応とはまた異質だ。だからといって幼いわけでもなくて、むしろ海先生以上にシビアでクールなそれを、私は悪いとは思わない。それは時に人を迷わせるけれど。その代わり盲信しているわけでもないな、と、今はそう思えるようになった。
「私が言うのもなんですが、気にしない方が良いですよ」
私は心から言った。
熊もドラムも直線も、悪い人じゃあない。知ったからといって、誰も悪いようにはしないだろうに、何をそんなに恐れるのだ。
今回は倣ったわけではなかったが、それは奇しくも、彼女が私に言った言葉と同じものだった。
(彼女と同じなら、それはきっと間違いではないのだ)
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