忍者ブログ

それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

2024.11│123456789101112131415161718192021222324252627282930

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

7月27日 そのためのアルバムですから

「映画観ただけだよ」
「ほんっとにそれだけ?!」
「う、うん」
「映画ってデートコースじゃんか!」
「すぐ帰ったよ」
「私はその後髪切りに行ったんだけどね」
「切ったって……おまえなんかしたの?」
「手出したんじゃないでしょうね!」
「出してないよ!」


話題の無かった旧友たちの好奇心を煽ったらしい私と数学は、面白そうに囃す彼女らの質問(というか尋問)をのらりくらりと捌いた。
驚きながらも飄々と器用に質問を受け流す数学は、意外なことに意図を全く感じさせず、読めないやつだ、と私は心の中で呟く。
(へらへらしているように見えて、実は何も言っていない。誰も気づいていないけれど)

それにしても何故そんなに驚くのか。
単純な疑問は口をついていたようで、「そりゃあ、  だからだよ」という答えの言葉は耳の前に提示されていた。
私だから。ああ、そうか、旧友達の中にいる私は、恐らく時間が止まっている。私の中で彼女の時間が止まっているのとは別の理屈で。
これが例えばドラムと直線なら、そうなんだ、の一言で十分済まされるところだろう。やっぱり私という人間の印象は昔から――とつくづく思った。

「  を穢さないで!純粋なんだから!」

戯れに直線が言う。

「私はあまり純粋じゃないですよ」

ぽつり、と呟いた言葉は小さすぎて会話の中には入って行かなかったようだった。





「  は警戒心が無さすぎるよ!」
「そうそう」
「  、行くときは言っておいて欲しかったな」
「ごめんなさい」

驚いたでも面白がるでも囃すでもなくて、寂しそうに興業は言ったから、私は思わず謝っていた。

拍手

PR

1月27日 オレンジジュースと沈黙

「……」
「……」
「……」
「……」
「……それで、」

話ってなあに、と彼女が笑う。私は首を捻ってうんうん唸る。
そんな私を見ながら、例の笑みを浮かべる彼女は、私が話し出すのを待っている。


「それで――あの――」
「うん」
「……うん――」
「なあに――」


彼女は笑みを張り付けて、言っちゃいなよ、と言う。私は、また、曖昧に笑う。

彼女は、辛抱強く待っている。
私が、好きだ、と言うのを待っている。
例の笑みで待っている。

いつまでも待っている。

拍手

7月30日 君に贈る愛の言葉を謳うよ

「何故髪を切ったんだろうねって?彼女が?」
「そう」
ふうん、と皮肉っぽく鼻をならした。成る程そういうことか。
先程の謎が解けてすっきりしたはずの頭を再び抱え、なんとか深呼吸をする。あらん限りの皮肉を頭に思い浮かべた。
「黄色」
「うん」
黄色は哀れむでも怒るでもなく、あの時ホットドックを食べていた時と同じ目をしていた。
「私には※※※がいる」
黄色は黙って笑って頷いた。
「今に始まったことじゃあないよ。言葉尻を晒されるのは」
「元気を出して」
「でもね、私は――」
私の直感と彼女の他人行儀、どちらを信じるべきか知っている。
私はなぜかまったく平常心を保っていて、むしろ冷静にこの状況をみている自分がいた。ああそうか、ああそうか、これはきっと――



障子は朝日を優しく通していた。時計を見ると、起きる予定の時間より十分ほど早い。暫く目を開けたまま動かずにいると、そのまま、目を開けたまま、寝てしまいそうな程の睡魔が襲ってきたので、慌てて布団を蹴飛ばして起きる。

実際に起こってもなんら不思議ではないけれど、それにしても厭な夢だ。

拍手

7月18日 ジャンク・フードの会談

「彼女は※※かもしれない」
「洒落ににならねえぞ」

私はトレイにひいてあった紙が、ジュースの水滴で灰色になってゆくのを眺めていた。水滴が紙カップから滴り落ち、水玉模様をじわりじわりと作っていく。

「どうするんだよ」

まずいぞ、それは。と奴は顔を歪めて言う。
どうしようもない、他人の考えることなど分からない。ただ、その可能性は零ではないな、と思った。小数点以下に零が百くらいつくような、零に限りなく近いものだけれど。

そんなことさせない、と呟くと、それがあまりにも現実と遊離した考えのように感じられて、私はそれを振り払うように紙を端から少しずつ折っていった。事実、それは現実的ではなかった。


「※※はしない、掠り傷くらいはあるかもしれない。けれど、流石にそんなことあるわけない、と思う」
「しかし、人間何をするか分からねえよ」


低い音を立てて携帯が受信を告げた。テーブルの上に放置されていた携帯のランプは、赤。私はぎくりとして暗証番号を打ち込む。東からだった。溜め息を吐いて携帯を閉じる。



「もしもの時は――その時は――」


かばっておまえが※※。


分かっている、と私は頷いて、トレイの紙をぐしゃぐしゃに丸めた。信じるべきは、自身だ。

それ相応のことをしたのだ、という言葉は私のもので、誰のものでもない。

拍手

7月27日 私の幸せが、あなたの幸せになりま すように

ああ、分かった。
それは自分の幸せが飛鳥の幸せになることを望んでいるのではなくて、二人の幸せが同じところを目指すのを望むことでもなくて、ただ、自分の存在が飛鳥の幸せに貢献出来れば良いという、謙虚で悲しい小さな願い

ありがとう、と私は小さな箱に向かって一礼をした。

拍手

7月27日 投影

「気まずい」
「どうして?」

数学は笑った。
何故だか自分を見ているような気がして、私は数学に対して嘘を吐くことはしないだろう、などとぼんやり確信する。「他人の言うことなんて気にしなければ良いんですよ。気にしなければ。」どちらかといえば自分に言っていた。

虫が泣いている。夜独特の音がしていた。

つい一分前、「空気を読むよ」と言ったドラムと、それからそれを肯定し、囃した旧友たちを思い出す。皆一様に本気だなどと思っていないし、それは私とて例外ではない。要は面白がっているだけなんだ皆は、と、私は初めて愛情を込めてその言葉を使った。

「熊はね、ドラムに送られたがらないんです」
「熊が?」
「そう。ほら、いつもみたいに、にこにこ笑って言ってました」
「そうなんだ」

いつもは熊とドラムとのぼる坂を、今日は数学と歩いてる。
脇の神社からは虫の鳴き声がする。じいじい、泣いている。

皆お互いの近況など、恐らく触り程度にしか知らない。しかしそれでも私達を繋げている、確かな絆がある。かつて同じ場所にいて共に支えあったという事実が、私達を繋げている。だからこそ、私達はここにいられる。ここには諍いも無ければ策略も無い。
それを嘆くかのように、虫たちは泣いている。知っているのだ。その微妙な距離感が崩れたときどうなるのかを。

私と数学は、それを微かに揺らしてしまった。まだ崩れない。しかし、もしかしたら、いつかは。
きっと工業はそれを感じ取ったのだ。


私は、出来上がったアルバムを受け取る先生の姿を想像していた。そして、その後のことを考えていた。
私は、それでもきっと、何も言わずに数学と出かけるからだ。

拍手

8月3日 戯れ言



海に行きたいんです
そして貝殻を拾います
できあがった首飾りを
持って九月に学校に行きます

だいたい君は紙一重ですよ
井伊直弼が言っていました
スルメがスイカになるのかって
君がかつてしてくれたように
とりあえずは見ない振りを続けます

いっぱいの貝殻をあげます
いっぱいの首飾りをあげます
罪の意識など無意味だと知っています
月は今日も綺麗です
計画的ではないので
真っ直ぐなあなたには
すぐに負けてしまうのです




私は笑ってぱたりと携帯電話を閉じた。
全く皆、無意味なことを考えるのだけは得意なのだから。

拍手

8月3日 それはきっと現実じゃない

※※※ちゃん。
私が呼ぶと、彼女は少し笑って顔をあげた。
「久しぶりだね――暫く顔を見てなかったよ」
「そうだね」
「何か、あったの?」
単刀直入に切り込まれる言葉。敢えて疑問系にしたのかもしれないが、何かあったからこそ此処にいるのだと、彼女は分かっていたに違いない。彼女は私のことを大体把握しているし、私もまたそうであった。「まあ、色々とね」

「たしか、最後に会ったのは五月三十一日だよ。それっきりで一度も会っていないから、結構私は知らないことが多いと思うけれど」
「それは私もだよ」
「そういえば昔言っていたあの本だけど――」
世間話を暫くすると、あっと言う間に時間は過ぎていた。窓の外は真っ赤になっている。
せかいのおわり、などと言う言葉が頭をよぎった。

もう世間話の種も尽きて、沈黙が訪れた。そっと荷物を纏めながら、私は言った。
「そういえば、何回かあの子にあったよ」
「そう」
それだけ言うと※※※ちゃんは黙った。ただのつけたしでは無くて、これが本題なのだと気づいたはずだった。
しかし、だからなんだ、とも言いたげで、これがあるべき姿なのだと私は無理矢理納得させる。
君を好きな子じゃないか、純粋に君を好いているあの子に対して、何か一言あっても良いじゃないか――喉から出かかった言葉を飲み込んだ。私はあの子の肩を持ちすぎているだけで、※※※ちゃんは何も間違ったことをしていないのだから、そんな言葉は見当違いも甚だしい。


あの時私が何も気付かなかったことを、※※※ちゃんは今でも怒っているのだろうか。私はふと思った。
何も気付かずに不用意に彼女の話をして、※※※ちゃんは傷ついていたのだろうか。今となっては何も分からない。ただ、※※※ちゃんは分かりにくいのだ。世間一般の人間が※※※ちゃんに対して抱いているイメージとは反対に、感情を全く発露しない。

『そんなに深く考えなくて良いよ』
『違う。君が本当に本気なら、私も真面目に考える』

しかし、気づいたからといって、私に何ができたのだろう。※※※ちゃんのあの二面性に常々恐怖を感じた私に、何が出来たのだろう。言葉遊びで人を惑わしていた※※※ちゃんに、何を出来たのだろう。はっきり言わないで、人に確信を持たせないようにしていた※※※ちゃん。決定的なことを何も言わない※※※ちゃん。私は常に吐きそうな不安を抱えていて、それで何が出来たのだろうかと――何も出来ないに決まっている。


「また会おう」

※※※ちゃんはそれだけ言うと席を立った。


そうだ、きっと私は※※※ちゃんが怖いのだ。昔も、離ればなれになった今も、常に私は見えない束縛を受けつづけている。

夏になってから全く思わなくて、むしろそれを嫌がっていたのだが、その時初めて私は、彼女の顔を見たいと思った。
当然だが、※※※ちゃんは彼女に似ていた。

拍手

8月10日 ブルーベリーの魔法

「『ラブイズブラインド』」

シミ先生ならLove is blind.と綺麗に発音するかもしれない。(実際私は発音を聞いたことは無かったから、あくまで推論だけれども) はっぱ先生なら、らぶいずぶらいんど、と片言で言うだろう。
せめて片仮名であって欲しい私の発音は、現実味に乏しいこの言葉を表すのに持ってこいだ。


「ねえ奈良。盲目なのは生まれつきなのかな。それともある時目を潰されてしまったのかな」
「目を潰されてしまったんだよ」
「恋は目を潰すのかあ」
「そう、女の子は恋をすると魔法が使えなくなるんだよ?」

奈良は揶揄するように言った。

女の子は皆魔法使いなのだ。魔法を使って皆を惑わす無邪気な存在。ところがある時から無邪気でいられなくなる。知ってしまってからはそれが出来なくなる。何も見えなくなる。
そして女の子は少女になる。

「いつかまた、目は見えるようになる?」
「見えるようになるよ。いつかはきっと」


次に目が見えるようになったとき、少女は女性になっている。
しかしその時、魔法を使うことは出来ない。

拍手

8月13日 旗折り警戒人

「変なの。厭なら最初から関わりを持たなければいいのに」
ワタヌキは歯切れ良く言った。
「まあでも、状況ってものがあるらしいよ」
ついでにそれは不可避らしい、と私が嘯くと、ワタヌキは不満そうな顔をして、そうかな、と呟いた。
「不可避といったって、避ける努力をしたようには思えないけれど」
「私は事情を詳しく知らないからなんとも言えない」
コーヒー・ゼリーをスプーンで掬いながら私は、ワタヌキの意見は至極尤もだと思っていた。しかし同意するわけにはいかなかった。それは、友人の否定を意味した。
「『人は人。私は私。』だよ」
「そうだね」
ワタヌキは渋々、と言ったように頷いた。その言葉は思考を停止させる、ある意味最も危険な言葉だと分かっていたが、お互いそれに関しては何も言わなかった。
真っ直ぐな人間は好きだ。だから私はワタヌキが好きだ。



「要は、強い否定は強い肯定と表裏一体なんだと思うんだ」

拍手

カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
ブログ内検索
アクセス解析