忍者ブログ

それでも君を*****。

(愛か恋かも分からないけれど)

2024.11│123456789101112131415161718192021222324252627282930

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

9月26日 論理破綻

微熱まで下がった。果たしてどうしたものか。
許された時間を二日も無駄に過ごしてしまったのだ――残された時間は少ない。

ぬるくなったシーツの、まだ冷たいところを脚で探しながら、私は天井の木目を目でなぞる。するとまた眠気が侵食してくる。『今週は色々あったからね。ゆっくりお休み。』と、熊。『ありがとう、もう眠ることにするよ……』。優しい熊。熊はいつだって一切の妥協と馴れ合いを許さない。


目を閉じて想像する。想像のつかない想像を創造する。それにはいつだって彼女の顔をした誰かがついてまわって、私に向かって微笑んでいる。


私のすることで誰かが幸せになるのなら、なんでもしたい、と思うのは間違っているのだろうか。
愛に生きたわけでもなければ、恋に盲目になったわけでもないが、私はそんなことを思う。たった一言を、私が言うだけで救われる人間がいるのだ。ビター・チョコレートの河で溺れている人間を、私は掬うことができるらしい。
しかし、その一方でこんな言葉を思い出す。
君は自分本位に生きるべきだ。君は自分の幸せを願うべきだ。そんな言葉を。


色々な人間が様々な言葉で私にそう言ってきた。肯定的な言葉面だが、常に否定的非難的ニュアンスを含んでいて、そのたびに私はこう答えた。そしてこれからも同じことを言うだろう。私はいつだって自分の好きなように生きていた。そんなふうには生きていない。と。


いつだって自分の好きなように生きてきて、それで誰かに死ぬほどの迷惑をかけてきた。だから、誰かの幸せのためになにかをしなければならないのだと、思っている。そしてそれこそが私の幸せだ。そう思うことすらエゴだと分かっている。けれど。そうして私は許されたいのだ。今まで私が迷惑をかけてきて、それ故私に敵意を向けた人たちに。
一度でも誰かに敵意を向けた人間は、一生その誰かを許すことはないのだ。過去を消すことなど、決してできはしないのだから。


私のすることで誰かが幸せになるのなら、なんでもしたい。そんなのはエゴだ。真の幸せではない。分かっている。でも、許して欲しい。本当は誰かじゃない。あなたに許して欲しい。でも私は、あなたに許される方法を知らないんです。だから、誰かを幸せにしようとするんです。それで、償おうとするんです。やっぱり、自分本位なだけなんです。

拍手

PR

9月19日 四月の魚 1

喉がからからに渇いていた。乱暴に踏んだウォータークーラーのペダルが派手な音を立てる。冷たい水が喉を静かに伝っていく。全身ががたがた震えていた。上半身が何かに圧迫されていた。ついた膝に触る床が冷たい。水道の縁にかけた手も熱を奪われていく。全身を腕で覆い、私は蹲っていた。
好意を確かめる行為。私は少し泣きそうになって頭をかかえていた。
「そうだ、前にもこんなことがあった」
床に膝をつける。
「そして断ち切るのを止めたんだ」
蛇口から溢れる水がステンレスを叩きつけている。
「でも直ぐに後悔した――それは一時的なもので、また疑いを持ち始めたんだ」


間も無く始まる体育祭の話になって、それからその流れで恒例のあの話になっていたのだ。
「私は貰い手がいないかもしれない」
梨と彼女が話していた。私は教科書を捲って、至近距離にいた。教室の喧騒に混じって、二人の声が耳を通り過ぎている。ふと、彼女のあの低い声で、私を凍りつかせる単語が聞こえてきて、私の聴覚は皮肉にも敏感になっていた。
「いることはいるんだけれど」
彼女が梨に言う。
「同じ部活の子じゃないんだけれど、元運動部の子で」
「約束したんだけれど」
「最近気まずいみたいで」
「なにもなくて」
「残念だけど」
「まあいっか」
「みたいな」
「その子だけなんだけどね、頼まれたのは」


私はたまらなくなって教室を飛び出した。


(知っていたんだろうに、私が傍にいるって)
喉を伝う水が熱を冷ましていく。ふと顔を上げると、東がこちらに歩いてくるのが見え、急いで水道を離れた。
(嗚呼、なんでまた、今更)
今朝のことが頭に過る。

(無意味に私の話をした。無意味に私の名前を読んだ。私のそばで)
(私にあいさつをした。私に手を振った)
(今までそんなことはしなかっただろうに!どういう風の吹き回しなんだろうか)

なにが苦しいのかは分からなかった。ただ、昔のように私はトイレに篭って頭を抱えていた。


(知っている。彼女は好意を繋ぎ止めたいだけなんだろう。無邪気さは時に、残酷だ。)

拍手

8月3日 殼

もう少し自分本位に生きるべきだ、とその時狐は言った。それは勿論誉め言葉では無かった。「私はいつだって自分本位に生きているよ」。狐は言葉を使い損なった。その字面は本当に伝えたかったことを伝えられるものではなかったのだ。だから会話はそこで終わってしまった。
しかし言いたいことは伝わったし、表面の会話が有益な何かを生み出さなかったことも分かったので、私も特に言葉を続けることはしなかった。それで十分だった。


自分の好きなように生きるべきだ、と今度はワタヌキが言った。「私は好きなように生きているよ」
そうかな、と口ごもったワタヌキを見て、もしかしたら私は好きなように生きてこなかったのかも知れない、と思ったが、直ぐにそれは気のせいだと思った。そしてこう続けた。「仮にあなたの言う通りだとしても、私は絶対に好きなように生きることはしない」「どうして?」「私の唯一貫きたかったことは、全て否定されたから」ワタヌキはしばらく黙って考え込む仕草をしてから、彼女か、と小さく呟いた。「確かに、誰かに後ろ指さされてまでやりたいことなんて、沢山あっちゃいけないのかもしれないなあ」

拍手

9月23日 コンプレックス・ジレンマ 3


「神社のこと」
「うん」
「言うよ」
「うん」
「…………   」
「………………うん」
「すきなのは」
「………うん」
「うん」
「知ってたよ」
「え」
「確信はなかったけれど」
「…………そっか」


上擦った声がスピーカーから漏れる。沈黙が漂う。沈黙が。私はふと、辛さと奈良を思い出し、口の端で笑った。今さらだったが、些か自嘲的に思い出す。皮肉にも私は奈良だった。

「……それだけ?」
「うん」
「いいの、あの」

言葉を濁すと、いいんだよ、と優しい声がした。「応援するから」。なんだか不思議な感じがして、私は目を閉じた。「応援されるのは困ります」「困るの?」「あなたは、会ったことがあるんです」「どこで……」
私は息を含ませ出来るだけ小さく言った。「文化祭」。

トール・ペイントのストローク、一本分くらいの時間が流れた。

「あの、すれちがった……男の人……?」
「    」
ストローク一本分の沈黙。
ストローク二本分の動揺の言葉を聞いてから、遮るように私は言った。
「だから尊敬してるんです。とても。」
今はそれで十分だった。



「安心しましたか?」
「……さあ、どうだろう」
曖昧な声を聞き、私は、彼女が私ならば、と無意味なことを考えていた。

拍手

9月25日 嫌悪感

昔、私には嫌いな言葉があった。いろけづく、という言葉だ。それに近いニュアンスを含んでいる言葉も嫌いだった。にきび、声変わり、胸、**、**、***、等々。正確に言えば二次成長的なものに嫌悪感を感じたようで、性的なものへの嫌悪は、その中に含まれた。

話題にすることすら嫌だったが、それ以上にそれらを指摘されることに、強い羞恥を感じ、そのたびに、その場から逃げ出したい気持ちにかられた。耳にすることすら嫌だった。

そのようなものへの嫌悪は誰にでもあるものだとわかっていたし、実際そうだったのではないかと思う。しかし私のそれは、いささか度を越していた。
色気がある人が嫌いなわけでも、そのような言葉を発する人が嫌いなわけでもない。厭なのは言葉そのものとそれに内包されるイメージだ。いつだって人に罪はなかった。

成長して、段々そのような言葉に慣れていった。
しかし、その代わりに別のものに苦手意識を感じるようになった。変化だ。

石鹸の匂いしかしなかった級友から香水の匂いがしたとき、化粧っ気のなかった級友にアイラインを見つけたとき。私は見てはいけないものを見てしまったような羞恥と、形容し難い気まずさに襲われた。それは、要素がその人に定着するまで続いた。
子供だったものが周囲や異性の目を意識して性を含んだ大人になるそのプロセスを不得手と感じるようだった。

それは、自身に対しては一層強かった。だから適当な理由をつけてスカートは膝下を保って、いつまでも丈の短い靴下を履いて、なんとかそのような変化を悟らせないようにした。しかしだからといって、私は授かった性が厭なわけでも、性別を変えたいわけでもなかった。むしろその一方で、本当は短くて可愛いスカートを履きたいし、綺麗なピンで髪を留めたい、などと思っていたのだ。
今でもそのジレンマに襲われている。

きっと私のジェンダーは「少女」で、私は大人になりきれないだけなのだ。

拍手

9月28日 透明人間

それは最早病気かもしれなかった。
わからないのだ。彼女が誰に向かって話しているのか。
オアシスが言葉を救って代わりに返事をして、曖昧に首を傾げて、私は溜め息をついた。
(わからないんだ。目があったのかどうかも)
視線、言葉、内容、角度、表情、状況。その他諸々の条件を考慮して、それに合致するのが私しかいないと分かっていても、それでもわからない。目があっていても、その事実を認識することにひどく時間がかかった。


「風邪ですか」
「うん、熱が出てね」
話しかけるぶんには普通であるところを見ると、やっぱり認識する私の側に問題があるのだろう。しかし決定的なことに思いあたるには至らなかった。だから単純に、私はそのように扱われ慣れていないだけだということにしておいた。

拍手

9月28日 血の欠片

咳をして座り込んだ私に彼女は言う。
「無理して来ることはなかったのに」「そうだね」
学校は閑散としていた。私も、きっと来ないほうが良かったのだろう。――サンに会いたかったからね、という気障な台詞が頭をよぎったが、それを口にすることはしなかった。酷い嘘だった。「……部活、帰ってた」「ああ、帰されたねえ。後輩が皆感染しちゃって」「みんな?」「一つ下と二つ下が」「たいへんだね」
ああ、気まずいわけじゃない。気まずいわけじゃないんだ。それ以上でもそれ以下でもなくて、私は他人行儀に言葉を返す。そうしていると、彼女に許されたような気になってしまう。全てがなかったかのように錯覚してしまう。私は自分の甘さに泣きそうになる。彼女はいつだって私に対しては知らない振りを貫いてきたというのに、それすら忘れてしまいそうになる。昔戻れたのかと、その優しさも関心も、なんの代償もないものだと思ってしまう。無償のものなど、この世には存在しないというのに。その欠片を、また何かの中に探そうとしてしまうのだ。

拍手

10月3日 腹を晒す

私は同じかもしれない。そしてそれは耐え難いことだった。

駆け引きのしかたなど知らないし、勿論対処のしかたも分からない。ただ彼女が、私に悪意を向けられている、と認識するようなことは、あってはならないと思った。憎んではいなかったし、勿論怒ってなどいなかったが、自分の態度を省みた時、彼女がそう受け取る可能性は零ではないなと思った。肉体的精神的に暴力を振るうことは許しがたい。仮に無意識だったとしても、それを言い訳にすることは最低の振る舞いだと信じている。そして何より、過去がそれを許容しないのだ。




「――サン!」
ふわり、と弧を描いて銀色が飛んでゆく。反射的に左肩に手を伸ばし、ぱし、と音を立てて彼女はそれを掴んだ。
「これなに?」
「ガム――あげる!」
「ありがとう」
に、と例の笑みで彼女は言う。私も同じような笑みをと浮かべる。苦笑でもなく歪でもなく、私は久し振りに彼女に向かって笑えたような気がして、気がつけば、あは、と声を出して笑っていた。
これで私は彼女に跪いたことになる。彼女はきっと元に戻る。その笑顔がどんな意味を含んでいても、彼女が何を思っていても、今はそれでいいと思った。私は、私の顔色を窺う彼女など、見たくはなかったからだ。

拍手

10月2日 赦す

がしゃん、という金属音と、間抜けで明るい機械音を聞いてから、私は静かに歩き出した。吹き抜けのどこにも人は見当たらない。窓ガラスの向こうにいる事務の教師に会釈をしながら階段を上ると、どこからか消防車の音が聞こえてきた。

(私は、ただ恩赦が欲しかっただけじゃなかろうか。それも私でなく彼女の。)

ぷかぷかと雲が流れていく。灰色の雲が流れていく。放課後の校舎。誰もいない校庭。感傷が襲ってきて、鼻がつんとする。

(許すっていうのは、認めるってことじゃないのか。だとしたら、何よりも先に認めなければいけないのは、自分ではなく彼女のことだ)


私は木製の椅子にどさりと腰を下ろした。「おかえり」「ただいま」。もう、何も考えることなどない。そう思っていた。が、無意識にぼんやりしていたようで、黄色と幸せが、気にするな、と声をかける。気にしていない、と私が言うと、黄色は眉をひそめた。
「気にするな、いずれ良い思い出になるから」

大きな窓の外には、灰色の空が広がっている。この空を介して全てが繋がっているというのは、ただの比喩で、全くの嘘だと思った。私は首を垂れた。
「気にするな」「気にしていない」。
遠くで、皮肉っぽい声が聞こえる。私は、私に対してその言葉が肯定的に使われたのは、数えるくらいかしかなくて、大抵は蔑視と嘲りだったことをふと思い出す。やはり今回も同じだった。


「私は、人を好きにならないな――どうにも」
誰に、ということでもなく、ぽつり、と呟いた。
「彼女を好きだったときのように――好きにならないな――」


ただ一言、いずれ無かったことになるから、忘れてしまえ、と言葉をかけられて、私はとうとう泣きそうになった。だとしたら、今に意味なんてあるのだろうか。この気持ちさえも、嘘になると言うのだろうか。笑いあったことや、ぶつかりあったことも、みんな無かったことになるのだろうか。今を生きているのは、私だけだったのだろうか、と。


気にするな、と二人が言い、気にしていない、と私は返した。気にしているのはあちらのほうだから、と、ひどい真実を吐いた。

拍手

10月10日 秋雨前線

今までの陽気が嘘のように、寒気が主張を始めていた。校庭には人がぱらぱらといたが、皆耐えるように長袖で肌を覆っている。そんな中半袖の体操着を着ている彼女は、案の定背中を丸めて、さむい、さむい、と繰り返していた。顔をしかめて二の腕を擦る。トレーナー、貸そうか。その一言が言えずに、れんしゅうしましょう、と声をかけた。

拍手

カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
ブログ内検索
アクセス解析