「神社のこと」
「うん」
「言うよ」
「うん」
「………… 」
「………………うん」
「すきなのは」
「………うん」
「うん」
「知ってたよ」
「え」
「確信はなかったけれど」
「…………そっか」
上擦った声がスピーカーから漏れる。沈黙が漂う。沈黙が。私はふと、辛さと奈良を思い出し、口の端で笑った。今さらだったが、些か自嘲的に思い出す。皮肉にも私は奈良だった。
「……それだけ?」
「うん」
「いいの、あの」
言葉を濁すと、いいんだよ、と優しい声がした。「応援するから」。なんだか不思議な感じがして、私は目を閉じた。「応援されるのは困ります」「困るの?」「あなたは、会ったことがあるんです」「どこで……」
私は息を含ませ出来るだけ小さく言った。「文化祭」。
トール・ペイントのストローク、一本分くらいの時間が流れた。
「あの、すれちがった……男の人……?」
「 」
ストローク一本分の沈黙。
ストローク二本分の動揺の言葉を聞いてから、遮るように私は言った。
「だから尊敬してるんです。とても。」
今はそれで十分だった。
「安心しましたか?」
「……さあ、どうだろう」
曖昧な声を聞き、私は、彼女が私ならば、と無意味なことを考えていた。
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