もう少し自分本位に生きるべきだ、とその時狐は言った。それは勿論誉め言葉では無かった。「私はいつだって自分本位に生きているよ」。狐は言葉を使い損なった。その字面は本当に伝えたかったことを伝えられるものではなかったのだ。だから会話はそこで終わってしまった。
しかし言いたいことは伝わったし、表面の会話が有益な何かを生み出さなかったことも分かったので、私も特に言葉を続けることはしなかった。それで十分だった。
自分の好きなように生きるべきだ、と今度はワタヌキが言った。「私は好きなように生きているよ」
そうかな、と口ごもったワタヌキを見て、もしかしたら私は好きなように生きてこなかったのかも知れない、と思ったが、直ぐにそれは気のせいだと思った。そしてこう続けた。「仮にあなたの言う通りだとしても、私は絶対に好きなように生きることはしない」「どうして?」「私の唯一貫きたかったことは、全て否定されたから」ワタヌキはしばらく黙って考え込む仕草をしてから、彼女か、と小さく呟いた。「確かに、誰かに後ろ指さされてまでやりたいことなんて、沢山あっちゃいけないのかもしれないなあ」
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