私は同じかもしれない。そしてそれは耐え難いことだった。
駆け引きのしかたなど知らないし、勿論対処のしかたも分からない。ただ彼女が、私に悪意を向けられている、と認識するようなことは、あってはならないと思った。憎んではいなかったし、勿論怒ってなどいなかったが、自分の態度を省みた時、彼女がそう受け取る可能性は零ではないなと思った。肉体的精神的に暴力を振るうことは許しがたい。仮に無意識だったとしても、それを言い訳にすることは最低の振る舞いだと信じている。そして何より、過去がそれを許容しないのだ。
「――サン!」
ふわり、と弧を描いて銀色が飛んでゆく。反射的に左肩に手を伸ばし、ぱし、と音を立てて彼女はそれを掴んだ。
「これなに?」
「ガム――あげる!」
「ありがとう」
に、と例の笑みで彼女は言う。私も同じような笑みをと浮かべる。苦笑でもなく歪でもなく、私は久し振りに彼女に向かって笑えたような気がして、気がつけば、あは、と声を出して笑っていた。
これで私は彼女に跪いたことになる。彼女はきっと元に戻る。その笑顔がどんな意味を含んでいても、彼女が何を思っていても、今はそれでいいと思った。私は、私の顔色を窺う彼女など、見たくはなかったからだ。
PR