(私は間違っていなかったのだ!)
試合が始まった。私は窓の外から、世紀と星と梨と、それから心臓がコートに入っていくのを見た。
「始まった」
行きなよ、と彼女が言う。私は、黙っている。時計は、18分を指している。彼女は、まだ教室にいる。
(嘘吐き)
教室はがらんとしていた。
いつもわあわあと戯れている人間たちも、流石に今日は帰宅したようで、珍しく静寂が漂っている。しかし全く寂しく感じないのはおそらく気持ちの問題なのだろう。
「……行かない」
「……行こうよ」
「行かない」
押し問答を数回繰り返して、お互い黙った。
もう、聞くことなど何もあるまい。此処にいる意味などあるまい。無意味なことなどしたくないのだ、と半ば強がりのように思った。
言いようのない不快感に襲われた。(それはきっと、不完全燃焼というやつだろう)
「行かなきゃ」
私は教室を飛び出した。
試合が終わると、丸くなってなんとなく反省会をした。
「大丈夫?」
「どうしたの?」
顔に出ていたわけでもあるまいに(否、おそらくきっと出ていたのだろうが)、世紀や星たちが心配をした。
(此れが他人行儀な優しさだというのだろうか、だとしたら此れに少し喜んでいる私は最低だ。他人の優しさにつけ込んでいる)
私はそこで、教室の窓から覗く人影を見た。直ぐに、彼女だ、と思った。
「私は」
「『私は』?」
「『私は』『貝になりたい』!」
「……わけではない」
会話は殆ど耳に入っていなかった。ただ、窓を見ていた。
そこで初めて頭を下げた。
伝わったかは分からない。私の視力は著しく落ちてしまって、彼女が何処を向いているかも分からないのだ。
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