「いつか殺されてしまう」
後ろから誰かに抱きつかれていた。「殺さないよ」。面白がるように、或いは揶揄するように言葉が降りかかる。「殺せないよ」。
箱の中だった。机の上には教科書が散らばっている。
目をさますと私を連れ去った張本人が転た寝をしていた。暫くその寝顔を見ていると、人の気配を感じ取ったのか、静かに目を開け遠慮がちに欠伸をする。
「みかなちゃん、起きたんですか」
大きな口をあけ、無防備で全てをさらけ出しているくせに、どこか隙のない目をしていた。(そういえば彼女は、あの箱の中でも、いつもそうだった 気がする)
一日で隣の県まで来れた。
初めて来た公園の滑り台の下は、夜の闇もあいまって妙な安心感がある。
どこかで虫が鳴いている。
月の光と、薄暗い街頭が、ジャングルジムを照らしている。
「君は、私を殺すの?」
彼女は驚いて目を丸くして、それから不思議そうな顔をした。
「殺すわけないでしょう」
「殺されると思っているのは一人だけで、他の三人は、まさか、本気でそんなことは思ってないでしょうに」
他の三人とは誰をさしているのか、悲しそうな目をした彼女には聞くことはできなかった。
「命は一つしかないのです」
珍しく彼女は正論を言った。